急速拡大装置とは
子供の顎の成長と歯列の横幅を大きくする装置 急速拡大装置(きゅうそくかくだいそうち)について写真を使用しながら紹介します。急速拡大装置上顎の歯列の横幅(歯列)を横に広げる、固定して治療する矯正装置です。
公開日:2019/10/01 更新日:2024/02/16
監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
目次
歯並びを骨格からアプローチする急速拡大装置とは
永久歯が生え揃うにつれ「前歯のガタガタが目立ってきた」というお子さんは骨格が小さいのかもしれません。歯並びが悪い原因が「骨格」にある場合は骨の成長を正しくコントロールする必要があります。急速拡大装置は上顎の成長発育をサポートし、骨幅を広げる装置です。歯列の横幅を広げることで永久歯が生え揃うスペースを確保できるほか、鼻腔も拡がるため口呼吸から鼻呼吸への改善も期待できます。
歯列の横幅を広げる急速拡大装置とは
急速拡大装置は上顎の横幅を広げるための固定式の装置です。上顎の口蓋(天井の骨)は真ん中から左右に分かれており、「正中口蓋縫合(せいちゅうこうがいほうごう)」と呼ばれる「つなぎ目」によってつながっています。急速拡大装置は、このつなぎ目に圧をかけて「つなぎ目」を開き、骨格の幅を広げることで上顎の成長をコントロールします。 骨格の幅を広げる矯正期間は数週間のみ。歯医者さんで上顎の裏側に急速拡大装置を固定し、自宅で継続的に拡大ネジを回しながら歯列に掛かる力を上げていきます。装着後は歯科医院で指示された期間で指示された回数分、自分自身で装置のねじを回します。ねじを回す頻度は1日につき1/4回転分(90°)を2回以上回すことが多いようですが、患者さんによってねじを回す回数や拡大する幅は異なります。
ただし、正中口蓋縫合部(左右の顎のつなぎ目)を拡大した直後は不安定で、骨や周囲の組織は安定していません。そのため、治療終了後は「保定期間」に移行して骨が安定するまで待つ必要があります。個人差はありますが一般的な保定期間は3か月程度。この期間は急速拡大装置をそのまま装着したままにして保定することが多いです。拡大した装置の部分はプラスチックを流して固定してしまいます。保定期間が終了したら矯正治療は終了。場合によっては保定期間が終わった後にワイヤーとブラケットを使い、隙間や歯のねじれ、咬み合わせの微調整を行うこともあります。
ちなみに、急速拡大装置は左右の顎のつなぎ目である「正中口蓋縫合」が癒合していない成長期(10~12歳まで)に治療をスタートさせるのが良いとされていますが、歯並びや顎の大きさなどの条件によっては大人でも治療可能なケースもあります。
子供の矯正で活用される急速拡大装置の特徴
急速拡大装置の特徴をご紹介します。メリット・デメリットにも触れながら装置について理解を深めていきましょう。
固定式の矯正器具なので取り外しが不要
急速拡大装置は金属製のバンド(歯に装置を固定する輪っか)とワイヤー、歯列を押し広げる力を調節する拡大ネジから構成されています。急速拡大装置は歯と装置を接着剤でしっかり固定するので自分で取り外すことはできません。ですから、取り外しが可能な床矯正のように、お子さんが勝手に取り出してしまう心配がなく、治療が計画通りに進みやすいという特徴があります。
歯列矯正の治療期間が短い
急速拡大装置の中央にある拡大ネジを調整することで、900g程度からキロ(Kg)単位の強い力で歯列を押し広げます。歯の移動速度はワイヤーとブラケットを使った一般的な歯列矯正よりも早いといわれており、治療期間は2週間程度です。保定期間を含めても約3ヶ月で終了するのが一般的です。
急速拡大装置のメリット・デメリットとストレスの種類
まずは、急速拡大装置のメリットからお伝えしましょう。急速拡大装置の最大のメリットは上顎の骨の成長を促し骨格や歯列のアンバランスを同時に改善できるということ。永久歯が全て生え揃う前(混合歯列期)に治療をスタートできれば、永久歯がきれいに生え揃うスペースを確保できるので、矯正治療のための便宜抜歯を回避することができます。
また、上顎を広げることで鼻呼吸をしやすい環境を作りだせるのも大きなメリットのひとつ。鼻腔が広がることで口呼吸から鼻呼吸への改善にも期待できます(上顎が狭いと空気の通り穴である鼻腔も狭いことが多く、鼻呼吸がしにくくなる場合があります)。「常にお口がポカンと開いている」「口で息をしていることが多い」「上下の歯の噛み合わせが逆になっている」など、お子さんの「呼吸のサイン」に気が付いたら一度歯医者さんに相談してみると良いでしょう。歯列矯正の必要性やスタートのタイミングについても教えてくれるはずです。
一方のデメリットは、装置装着による違和感が強い点が挙げられます。装置を取り付けたあとの1週間程度はこれまでとの感覚の違いにストレスを感じるかもしれません。例えば、発音がしづらい、飲み込みにくいといった違和感のほか、鼻や口元にツンとした痛みが起こることもあります。
しかし、これらの違和感は一時的なこと。数日で慣れて気にならなくなるのでご安心ください。どうしても痛みや違和感が強い場合は歯医者さんに相談しましょう。状況に応じた適切なアドバイスをくれるはずです。また、歯列が横に広がることで一時的に前歯に隙間が生じてきますが、時間の経過とともに隙間は自然に閉じてきます。
そのほか、食べ物が装置に付きやすく歯磨きが難しくなることも欠点です。ワイヤーやネジの部分に汚れが停滞しやすいので、小さなお子さんの場合はパパ・ママが仕上げ磨きをするなどのご家族のサポートが必要になります。
まとめ
お子さんに歯列矯正を受けさせるべきか迷っているパパ・ママは多いと思います。歯並びを骨格から整えられる期間は子供のうちのほんの僅かな期間のみ。「なんとなく歯並びが不揃いだけど、成長するときれいに整うかも」と期待していると、歯列矯正のベストタイミングを見逃してしまうことにもなりかねません。少しでも「何かおかしいな」と思ったら、気軽に歯医者さんへ相談してみましょう。お子さんの歯並びや身体の成長を確認しながら、お子さん一人ひとりに合わせた治療を提案してくれますよ。なお、緊急性がない限り、相談してすぐに治療という訳ではないのでご安心ください。
今回は急速拡大装置について解説しましたが、お子さんの歯並びや咬み合わせの状態によっては別の治療法がベストな場合もあります。お子さんの歯並びで気になることがあれば、まずはかかりつけの歯医者にご相談くださいね。
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