歯列矯正が保険(公的医療保険)適用になる条件とは?
矯正治療は一部の症例を除いて国民健康保険をはじめとした公的医療保険が適用されません。
矯正治療は基本的に公的医療保険(健康保険)がききません。しかし、厚生労働省が定めた特定の条件に限り公的医療保険が適用されることがあります。
ここでは顎変形症を含む先天異常59疾患、および歯列矯正が保険適用となる条件をご紹介します。
更新日:2021/8/02
矯正治療は一部の症例を除き全額自己負担
一般的な歯並びを改善することを目的とした矯正治療は、「審美的な処置」という側面が強いため、検査料や診断料、治療費が、医療機関(歯科医院や病院)によって 独自に決定することができる自由診療での治療となります。自由診療の治療費は患者さんの全顎自己負担です。
歯科治療において、「病気を治す」治療でない限り保険適用されないのです。
しかし、一定の条件を満たす症例であれば保険適用される矯正治療があり、
- 生まれながらにしてお口の中に異常が見られる先天性疾患
- 顎の骨の大きさ、位置、形が著しく異常である顎変形症
- 前歯が3歯以上の永久歯萌出不全が原因の咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)
上記に該当する症例と診断されれば、矯正治療に公的医療保険が適用されます。
また、保険適用の矯正治療を行うことができるのは、厚生労働大臣が定めた施設基準を満たしていると認められた医療機関に限られます。
下記にて、歯列矯正が保険適用される症例や疾患と条件、保険適用された歯列矯正を受けることができる医療機関の種類についてご紹介します。
保険適用の症例
国民健康保険をはじめとした公的医療保険が適用される条件は、生まれながらにしてお口の中に異常が見られる先天異常、 顎の骨の大きさ、位置、形が著しく異常で噛み合わせに問題が生じ得る顎変形症、前歯が3歯以上の永久歯萌出不全の場合に起きる咬合異常 (埋伏歯開窓術を必要とするものに限る)に対する矯正歯科治療です。
該当する症例、疾患の患者さんは、指定自立支援医療機関(育成・更生医療)であれば、保険適用の矯正治療を受けることができます。
厚生労働省が定める先天異常の59疾患
- 唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)
- ゴールデンハー症候群(鰓弓異常症=さいきゅういじょうしょうを含む)
- 鎖骨・頭蓋骨異形成 (さこつとうがいこついけいせい)
- トリーチャ・コリンズ症候群
- ピエール・ロバン症候群
- ダウン症候群
- ラッセル・シルバー症候群
- ターナー症候群
- ベックウィズ・ウイーデマン症候群
- 顔面半側萎縮症(がんめんはんそくいしゅくしょう)
- 先天性ミオパチー
- 筋ジストロフィー
- 脊髄性筋委縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう)
- 顔面半側肥大症(がんめんはんそくひだいしょう)
- エリス・ヴァンクレベルド症候群
- 軟骨形成不全症(なんこつけいせいふぜんしょう)
- 外胚葉異形成症(がいはいようけいせいいじょう)
- 神経線維腫症(しんけいせんいしゅしょう)
- 基底細胞母斑症候群(きていさいぼうぼはんしょうこうぐん)
- ヌーナン症候群
- マルファン症候群
- プラダーウィリー症候群
- 顔面裂(横顔裂、斜顔裂及び正中顔裂を含む)
- 大理石骨病(だいりせきこつびょう)
- 色素失調症
- 口腔・顔面・指趾症候群(こうくうがんめんしししょうこうぐん)
- メビウス症候群
- 歌舞伎症候群
- クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群
- ウィリアムズ症候群
- ビンダー症候群
- スティックラー症候群
- 小舌症(しょうぜつしょう)
- 頭蓋骨癒合症(クルーゾン症候群及び尖頭合指症を含む)
- 骨形成不全症
- フリーマン・シェルドン症候群
- ルビンスタイン・ティビ症候群
- 染色体欠失症候群(せんしょくたいけっしつしょうこうぐん)
- ラーセン症候群
- 濃化異骨症(のうかいこつしょう)
- CHARGE症
- 6歯以上の先天性部分(性)無歯症
- マーシャル症候群
- 成長ホルモン分泌不全性低身長症
- リング18症候群
- ポリエックス症候群(XXX症候群、XXXX症候群及びXXXXX症候群を含む)
- リンパ管腫
- 全前脳胞症(ぜんぜんのうほうしょう)
- クラインフェルター症候群
- 偽性低アルドステロン症
- ソトス症候群
- グリコサミノグリカン代謝障害(ムコ多糖症)
- 線維性骨異形成症(せんいせいこついけいせいしょう)
- スタージ・ウェーバー症候群
- ケルビズム
- 偽性副甲状腺機能低下症(ぎせいふくこうじょうせんきのうていかしょう)
- Ekman-Westborg-Julin 症候群
- 常染色体重複症候群(じょうせんしょくたいちょうふくしょうこうぐん)
- その他顎・口腔の先天異常(顎・口腔の奇形、変形を伴う先天性疾患であり、当該疾患に起因する咬合異常について、歯科矯正の必要性が認められる場合に、その都度当局に内議の上、 歯科矯正の対象とすることができる。)
参考:公益社団法人 日本矯正歯科学会(2021.7月時点 59疾患)
自立支援医療の利用者負担について
自立支援医療であれば、保険適用の矯正治療を受けることが可能です。
さらに、患者さんご自身または「世帯」の所得状況(収入)に応じて、患者さんのひと月あたりの自己負担額の上限が設定される制度です。
自己負担の上限や制度の詳細はお住まいの区市町村の保健所にお問い合わせください。
保険適用される顎変形症とは
顎の骨の形や大きさの異常が原因で、歯の噛み合わせに問題が出ていたり、お顔の形に対して顎の変形が目立っている症状を顎変形症[がくへんけいしょう]といいます。
顎変形症は遺伝的な要素が強いといわれていますが、ほとんどが原因不明で、指しゃぶりや舌癖などの後発的な要因も関係しているといわれています。
歯列矯正が保険適用になる顎変形症の診断基準は、口腔外科や形成外科にて、出っ歯や受け口などの不正咬合が顎変形症によるものと診断され、 外科手術が必要だと判断された場合に保険適用となります。
保険適用の歯列矯正を行う条件として、顎離断などの顎の骨を切る外科手術を行うこと、 顎口腔機能診断施設[がくこうくうきのうしんだんしせつ]に指定されている医療機関で矯正治療を行うことと定められています。
保険適用で顎変形症の治療が受けられる医療機関は限られています
顎変形症と診断された場合の手術を必要とする外科的矯正治療は、顎口腔機能診断施設であれば保険適用の矯正治療を受けることができます。 指定機関についてのお問い合わせや補助金の申請手続きは、管轄の保健所または福祉課へお問い合わせください。
なお、医療機関が顎口腔機能診断施設の認定を受けるためには、 「国から指定されている検査機器の導入」や「スタッフの人員配置」、「ほかの医療機関との連携体制が取れていること」などさまざまな基準を満たしていることが条件です。
参考までに顎口腔機能診断施設の認定基準(顎口腔機能診断料の施設基準)をご紹介します。
顎口腔機能診断施設の基準とは
指定自立支援医療機関(育成・更生医療)であること
障害者自立支援法施行規則(平成18年厚生労働省令第19号)第36条第1号及び第2号に係る医療について、 障害者自立支援法(平成17年法律第123号)第59条第1項に規定する都道府県知事の指定を受けた医療機関(歯科矯正に関する医療を担当するものに限る)であること。
指定された検査機器と人員配置がなされていること
当該療養を行うために必要な次に掲げる基準を満たしていること。
ア.下顎運動検査、歯科矯正セファログラム及び咀嚼筋筋電図検査が行える機器を備えていること。
イ.専任の常勤歯科医師及び専従する常勤看護師又は歯科衛生士がそれぞれ1名以上勤務していること。
外科手術を担当する医療機関と矯正治療を担当する医療機関との連携がとれていること
当該療養につき口腔に関する医療を担当する、診療科又は別の保険医療機関と、歯科矯正に関する医療を担当する、診療科又は別の保険医療機関との間の連携体制が整備されていること。
※上記情報 2021.7更新
歯列矯正が保険適用になるかは歯科医師に相談を
歯列矯正が保険適用になる条件、症例や疾患をご紹介しました。 顎変形症や先天性欠損による咬合異常、厚生労働省が定める59の疾患など、実際に保険適用で歯列矯正を行えるケースは多くありません。
外科手術が必要だったり、矯正治療を行う医療機関も限られていたり条件は限定的ですが、今回ご紹介した条件に当てはまれば、保険適用で歯列矯正を行えます。
歯列矯正が保険適用される・されないに関わらず、歯並びが悪いことは虫歯や歯周病のリスク上昇につながる可能性があります。
噛み合わせが悪いと身体に悪影響を及ぼすといわれていますので、気になる方は歯科医師にまずは相談してみてはいかがでしょうか。