たこさんの相談

カテゴリ:抜歯について

犬歯 埋伏歯の抜歯 メリットデメリットについ

小学6年生の息子についてご相談です。
1年生の頃から、顎を広げていくタイプの矯正をして来ました。4年生位からサボりがちになり、コロナを恐れて1年程通院しない期間ができてしまった事もあり、
上の犬歯が2本埋伏歯となってしまいました。

矯正歯科の先生からは、埋伏歯2本の抜歯をすすめられました。他の選択肢について、詳しい話などはありませんでした。

レントゲンでは、どちらも2番、4番の2本の根っこの間に真っ直ぐ降りて来て止まっている状態です。
片方は骨を削って抜歯、もう片方は鼻腔近くまで根があるといわれています。

痛みも何も無い状況で、全身麻酔をして、根の深い犬歯の埋伏歯を抜歯する事は、リスクが高いのではと悪い事ばかり考えてしまっています。

素人考えですが、このまま抜歯しないという選択肢は無いのでしょうか?
今すぐ抜歯をするという選択肢以外、方法はないのでしょうか。

アドバイスいただけるとありがたいです。

初めまして、マロニエ矯正歯科クリニックの栗田です。
ご質問にお答えします。

埋伏犬歯に関して、抜歯を提案されたということですね。
抜歯以外の方法もありますし、抜歯した後のことも考える必要があります。
犬歯を抜くのは大きな判断となりますので、本来であれば患者さんが納得するまで、しっかりと説明をすべきかと思います。
レントゲン、できればCTを見てみないと抜歯が妥当かどうかは判定できませんが、ご説明させていただきます。

おそらく、拡げる、サボる、となれば床矯正をやってらっしゃったわけですね。
取り外し式の拡大プレート(拡大床)を夜間のみ、もしくは日中も含めて使用していたのでしょう。
顎が拡がる限界があり、拡大プレートの2個目の途中で大体の方が限界を迎えます。
もし、一個しか使用していなかったのであれば、もう少し拡大する余地があったかもしれません。
顎を拡げることで、犬歯の萌出スペースが増大し、埋伏を回避できた可能性もあります。
また、埋伏犬歯の場合は、先行乳歯の乳犬歯が根吸収が生じずに晩期残存となります。
事前にレントゲンなどで、埋伏の可能性があると判断されれば、適切なタイミングで乳犬歯を抜歯すべきです。
乳犬歯が居座ると犬歯が埋伏しやすくなりますし、抜歯することで埋伏歯が位置を変えてくれることもあります。

初診時の犬歯の位置がどうであったか、矯正歯科の対応としてベストであったかはわかりません。
レントゲンの撮影を行っていたか、生え変わりの異常に気付いたか、乳犬歯抜歯を選択したか。
装置不使用で拡大不十分であったり、通院していなかったことで気づくのが遅れてしまった可能性もあります。
最大まで拡大し、レントゲンも頻繁に撮り、乳犬歯を抜歯していても、犬歯埋伏を回避できないことも多いです。
もともとの犬歯の歯胚(歯の卵)の形成位置や方向次第なので、どう頑張っても埋伏していた可能性があります。


埋伏犬歯への対応は、3つ。引っ張り出す、抜く、ほっとく、です。
このどれかを選択することになり、状況によってベストな選択は変わります。

①開窓牽引(引っ張り出す)

矯正を専門とする矯正歯科医師ならば、まずは犬歯を引っ張り出すことを考えます。
犬歯は根っこも長く、寿命も一番長く、咬合にとって重要な歯ですから、なるべく残す方向で考えます。
歯はミサイルのように向いている方向にまっすぐ進みますので、位置がずれている場合は引っ張る必要があります。
骨の中にある歯を引っ張るためには、歯茎を開いて(開窓)ボタンを接着し、引っ張ります(牽引)。
外科手術をすることになり、口腔外科医とタイアップして行います。多くは大学病院などでやるでしょう。
必要ならば犬歯周囲の骨もある程度削ります。開いた歯肉は閉じて縫合します。
切開線からチェーンが出ている状態に口腔外科医にしてもらい、そのチェーンを矯正歯科医が引っ張ります。

引っ張ってくるのは時間がかかります。位置にもよりますが、1~2年かかることも珍しくありません。
引っ張って犬歯を生やせば終わりではなく、そのまま全体矯正もやるならば、合計で3~4年かかるかもしれません。
必ず成功するのであれば、誰もがトライするでしょう。位置的に不可能なこともあります。
引っ張ってみて歯が動かないこともありますし、ボタンが歯茎の中で外れることもあり、その際は再手術となります。
難易度が高く、確実性に乏しいと判断される場合は、開窓牽引を選択しないこともあります。
「痛い思いをして、時間もかかったけど、結局犬歯が出てこなかった」というのは避けたいので、
明らかに引っ張るのが難しい場合は、開窓牽引をトライせず、他の方法にするでしょう。
引っ張る場合は、犬歯のスペースが無ければ動かせないので、2・4間にスペースを作ってから牽引します。

②全身麻酔による抜歯(抜く)

こちらを提案されたということですが、①で言った通り、牽引困難の場合は、あきらめるのも正解です。
骨の中から抜いてくるので、位置によっては全身麻酔も必要で、場合によってはかなり腫れます。
質問者様の言うように、おそらくお子様も大変な思いをするでしょう。
局所麻酔で済むか、静脈内鎮静法で行うか、全身麻酔で行うかは、担当の口腔外科医が決めます。
ただ、抜けば解決しますし、全体矯正も通常の期間で完結します。
前述のように、引っ張るのも大変ですし、結局オペが必要で、失敗したらもう一回手術が必要かもしれません。
一思いに抜いてしまうのも、一回だけで終わるので、結果としてお子様にとって楽な道ともいえます。

③経過観察という名の放置(ほっとく)

見て見ぬふりをして放置、というのもダメではありません。これも犬歯の位置によります。
まだ若いので、骨性癒着(アンキローシス)でなければ、犬歯は動いてくるはずです。
この際に、歯冠部分が周囲の歯を破壊しながら動いてくる可能性がありますので要注意です。
永久歯は先に生えている乳歯の歯根を吸収するようにできています。抜けた乳歯が短いのはそのためです。
犬歯が2番や4番にぶつかるような位置・方向にある場合、永久歯を破壊してしまいかねません。
破壊された永久歯は残すことが出来ずに抜歯となる可能性があります。
犬歯は別名『ギャングティース』と言われ、周囲の歯を破壊しやすい危険な歯であるとされています。
今回、矯正歯科医師が埋伏を発見せず、なかなか生えてこないなと何もせずに待っていると、
じつは隣の歯がボロボロで抜かざるを得ない状況になっていた可能性もあります。
または、犬歯の向きが鼻腔や上顎洞に向いていると、そちらへの悪影響もいつか出るかもしれません。
位置的に放置しても何の問題のない位置にあって初めて、放置して大丈夫となります。

どの選択が正解かは、レントゲンがすべてなので、レントゲンを見た歯科医師でなければ選択できません。
担当の矯正歯科医師は、何かしらの理由があって抜歯を提案しているのでしょう。
①は大変で、③は心配なので、②であれば、悪さをする犬歯がいないので、シンプルです。


また、①であれば、全部歯があります。②③は上の歯は2本ありません。
犬歯の問題とは別に、今後の全体矯正の方針によっても対応が変わります。

・お子様が抜歯ケースである場合

でこぼこや出っ歯の度合いが強ければ、全体矯正で数本抜歯して矯正する必要があります。
多くの場合は、上下の4番を4本抜きます。場合によっては上の4番2本を抜歯します。
そもそも抜歯ケースならば、頑張って犬歯を牽引してきても、そのあとに4番を抜くわけです。
4番よりも犬歯の方が価値が高いですが、牽引の大変さを考えれば犬歯を抜いた方がいいでしょう。
そもそもお子様が抜歯ケースなので、どうせなら埋まってる犬歯を抜くべきとしているのかもしれません。
上2本抜歯のⅡ級仕上げという治し方なら、上の犬歯だけ抜歯というのも納得できます。
上下4本抜歯もしくは非抜歯のⅠ級仕上げならば、上下の歯の本数を合わせるというルールがあります。
下の歯を抜く話がされていないなら、犬歯を抜くだけだと上だけ犬歯スペースがすきっ歯になります。

犬歯を抜いた後で、そのうち下の歯を抜歯する話をされるのかもしれませんが、
あくまで全体矯正治療のプランの中で、犬歯を使うか処分するかが決まるので、
全体矯正の方針も決まっているいないのにとりあえず犬歯を抜く、というのはあまりにノープランではないかと思います。
犬歯を抜いていいケースと、絶対に抜かずに生やさないといけないケースがあります。
歯を抜くかどうかは、最終的なお子様の咬み合わせや顔立ちに影響します。
犬歯がどうかの前に、犬歯を抜いた後どうするのかが重要で、見切り発車は危険です。
担当の先生のなかでは考えがあるのかもしれませんが、抜歯後の方針も含めて、事前に説明すべきです。

・お子様が非抜歯ケースの場合

抜歯ケースと反対に、でこぼこが小さかったり、口元が出ていない場合は非抜歯矯正が理想です。
非抜歯ケースを抜歯してしまうと、前歯が引っ込みすぎて、顔立ちが悪化します。
なので、犬歯を抜いた方が楽でも、非抜歯ケースだから何とか犬歯を牽引しないといけないケースがあります。
非抜歯ケースで埋伏犬歯を抜けば、下も抜歯して最終的に口元が引っ込んだ顔になってしまうかもしれません。
もしくは、下は抜かず、上の犬歯が無い部分にインプラントなどの補綴物を入れる必要があります。
人工の補綴物は費用も掛かりますし、長持ちしませんので、なるべくなら入れない方がベストです。
欠損部へのインプラントやブリッジは、成人してから行うので、中高生時代を歯が無い状態で過ごすことになります。
抜いちゃいけないケースで犬歯を抜いてしまうと、のちのち後悔することになりかねません。
本当に抜いていいか慎重になるべきで、補綴の可能性があるなら、それも事前に説明すべきです。

お子様が抜歯ケースなら、①の後で4番抜歯、もしくは②が正解です。
③については、犬歯分のスペースを閉じきる必要があるので、位置によっては邪魔になるので、抜歯が必要でしょう。
お子様が非抜歯ケースなら、①が一番良くて、無理なら②ののちに将来補綴となります。
③については、犬歯分のスペースに補綴を入れるのに埋伏犬歯が邪魔かもしれませんので、抜歯かもしれません。
インプラントならば犬歯抜歯の可能性が高いですし、ブリッジであれば骨の中は関係ないので放置でも大丈夫です。
ということで、放置した後の矯正治療を考えた時に、結局犬歯が邪魔になるかもしれないですね。


一生犬歯が悪さをしないと仮定し、犬歯欠損部は一生空いたままで良い場合のみ、放置も正解となります。
最終的にちゃんとした咬み合わせにするつもりで矯正治療を始めていらっしゃると思います。
犬歯が必要なら牽引、不要なら抜歯をしないと、その先の矯正治療を行うことが出来ません。
牽引も、抜歯も、両方決して楽な処置ではありませんが、やらないとお子様の歯並びは改善できないのです。
最終的な歯並び・咬み合わせ・顔立ちに関して、本来は担当の先生と話し合ったうえで方針が決まりますし、
①②③の選択肢をすべて提示され、そのリスクや成功率を説明したうえで、質問者様が選択するのが本来の形です。
担当の先生も無知無策ではないと思いますが、大きな決断をするための情報提供が不足しているとは思います。
矯正治療のプランニングも含め、犬歯をどうするかを担当の先生とよく話し合うようにしましょう。

以上を、質問への回答といたします。よろしくお願いいたします。
  • たこ(39歳 )
  • 2022年07月22日21時42分
マロニエ矯正歯科クリニック 栗田先生

お忙しい中、丁寧なご返信いただきありがとうございます。
大変詳しくご説明いただき、他にも可能性があるの事が初めて理解できました。

床矯正を小さい時から夜間にやって来て、サボりがちになっていたのは確かですが、犬歯についてはもっと早い時期に対処できていたのでは無いかという思いが強いです。
『サボると抜歯する事になる』とは言われていましたが、私が想像していたのは、生えている歯を抜歯して犬歯を生やす事でした。今回も、大学病院で話を聞くまで埋伏歯の抜歯である事を理解していませんでした。
あまりにもビックリして、抜歯について再検討にしてこちらでご相談させていただいた次第です。

あまりにも説明が足りていないと思います。
今通っている歯科医院には不信感しかありません。

辛い治療にならない様に、小さいうちから矯正を始めたのに、子供が可哀想でなりません。

ちなみに、下の歯は奥歯を2本抜いて親知らずを生かすといわれました。上の歯は、犬歯がない状態で、綺麗に並んでいる状態です。

先生にアドバイスいただき、どの様な選択肢があるのかがわかり、道が少し開けた気がしますので、違う矯正歯科にセカンドオピニオンをお願いしてみようと思います。

相談させていただいて良かったです。
ありがとうございました。
よく、子供の治療をやれば抜歯をしないで済む、という論調で子供の矯正を進める歯科医師が多いと思います。
抜くか抜かないかはあくまでスペースが足りるかどうかと口元の問題であり、拡大治療はスペースを増加する一手段でしかありません。
作れるスペースには限界があり、拡大しても抜歯した方がいい人もおりますし、拡大治療したからと言って非抜歯治療で完了すると、結局口元が飛び出して口ゴボ状態で終了してしまうこともあります。
お子様が治療を継続できたかどうかと、抜くか抜かないかは別問題だと思います。犬歯が無い状態でスペースなく並んでいるということは、歯2本分のスペースが不足していたということなので、どちらにしろ抜歯ケースであったと思います。

担当医に不信感を抱くのは無理もないと思いますが、早く対処していたり、最善を尽くしてもうまくいかないこともあります。
私も犬歯埋伏のケースで、拡大し、開窓牽引し、歯が動かずに失敗した経験もあります。事前に説明しておりましたのでトラブルにはならず、犬歯を抜歯した上で適切に治す方針に切り替えました。
アンキローシスを起こしていると歯と骨が接着し、微動だにしません。引っ張るという選択肢が消滅しますが、引っ張ってみないと動くかどうかわからないところもあります。
もしかしたらレントゲン像からアンキローシスを疑い、抜歯を提案している可能性もあります。

また、犬歯が無い状態で並んでいるのであれば、犬歯2本分のスペースを作るのは困難であるため、抜歯ケースと思われますし、犬歯を抜けば上の歯並びはほぼいじる必要が無いということで、犬歯抜歯は効率的です。
同様な状況であれば、確実性やお子様の負担を考えた時、私も犬歯抜歯を第一に提案する可能性があります。
説明不足確認不足ゆえに不信感もあるかもしれませんが、担当の先生の判断は誤りではないかもしれません。
セカンドオピニオンを受けるのも良いと思いますが、受けたところで担当の先生は間違っていないとなるかもしれませんね。セカンドオピニオンを担当の先生に伝えると、屈辱を与えることになり、関係性が最悪になります。セカンドオピニオンを実行するのであれば、ほぼ転院となるつもりでやりましょう。

ただ、下の奥歯を抜いて親知らずを使う、というのはまた稀有な治療法と思います。私もあえてそのプランにする事もありますが、安易に選択するとかみ合わせがめちゃくちゃになる可能性もあります。犬歯は抜けば終わりますが、下の奥歯抜歯が本当に妥当であるかは何とも言えません。埋伏犬歯同様に、親知らずが使えない可能性もあります。担当の先生が、熟達した策士か、知識実力不足の偏屈な先生か、どちらかかもしれません。

下の親知らずが出てくるのは18歳くらいですし、よほどのことがない限り奥歯抜歯にはしないと思いますし、その点に関しても質問者様のご理解が必要になりますから、やはり説明不足と言えるかもしれません。セカンドオピニオンの際にも、かなり意見が分かれる方針かと思います。上犬歯、下奥歯を抜歯するならば二級仕上げになりますから、下の親知らずが使えなくとも咬み合わせには問題ないとは思います。それこそ口の中とレントゲンを見ないと選択理由がわかりません。最善策かもしれませんし、大愚策かもしれません。

犬歯をどうするかの先に、咬み合わせを完成させる本格矯正治療が待っていますので、担当の先生に治療されるのか、はたまた他の先生に治療されるのか、よくお調べになってお考えください。
何やら複雑な状態のようですから、方針決定には適切な説明と、それに伴う同意が必要です。質問者様のご理解を得られていない段階で、担当の先生の説明不足は否めません。矯正歯科医師としての実力はまた別問題ですね。

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