トルさんの相談

カテゴリ:治療の開始時期

高2男子の反対咬合の第二期治療開始時期について

乳歯列の頃に反対咬合だったためフェイシャルマスクで第一期矯正治療を行いました。 
2ミリ程度被っていた前歯が最近になって切端咬合になってきたので矯正歯科を受診すると、下顎が大きくなってきているので最終的に歯を並べる治療が必要だが、受験時期なのでいつ二期治療を開始するかは本人に任せると言われました。
息子は16歳ですがまだ父親の身長にも届かないのでまだ成長が残っている=下顎も成長するかと思われます。
息子は噛む力が強いタイプらしく奥歯が噛み合っている力により、成長してもそこまでひどい受け口にはならないだろうと言われてきましたが、いま第二期治療を開始して奥歯の噛み合わせを緩めることで、ストッパーが外れ下顎の成長を助長させてしまうことはありますか?
そうであれば(最終的にはきれいに調整していただけるとは思いますが、)矯正をすることで逆に受け口の骨格を後押ししてしまうことになり不安です。 

長文になり恐縮ですが、二期治療をいつ開始すべきか是非アドバイスよろしくお願いします。

初めまして、マロニエ矯正歯科クリニックの栗田です。
ご質問にお答えします。

下顎前突のお子様の2期治療開始時期を検討中ということですね。
ズバリ、受験後が良いと思います。18歳以降に開始するのが理想ではないでしょうか。


女性は15歳、男性は18歳まで下顎が伸びると言われています。
たまにレイトグロースと言って、20歳くらいまで伸びる人もいます。
私自身もレイトグロースが生じたようで、18歳時と20歳時で少し顔が違いました。
正直、18歳時の顔の方が好きでしたが、成長なので仕方がないでしょう。

人間は生まれてから成人になるまで、成長とともに徐々に顎が伸びます。
6歳までは上顎の方が伸びがいいですが、6歳以降は下顎の方が伸びます。
つまり、6歳以降は下顎前突は悪化する一方であるということです。
フェイシャルマスク(上顎前方牽引装置)は6〜8歳が適齢期ですので、
お子様が経験された1期治療の方針は正しかったと思います。
ただ、乳歯列期に反対咬合が改善しても、成長ともに下顎前突が再発してしまうのはよくあります。

下顎前突の方は、大半が低位舌や舌突出癖を併発していて、
舌で下の歯を押すことで受け口化を助長してしまいやすいです。
そもそも成長のいたずらとして、遺伝子に組み込まれていて避けがたい運命だったとも言えます。
歯並びや骨格というのは、癖や生活習慣の影響も多少あるものの、ほとんどは生まれながらに決まっています。


咬む力が強くて、というのが顔面形態が四角い顔(ブラキオフェイシャル)であり、
前歯の咬み合わせも深くなっていると下顎成長をロックしてくれるだろうという見立てだったわけですね。
しっかり咬んでいると、咬み合わせが変化しにくいこともたしかにあります。
しかし、顎骨の成長の力の方が強いので、確実に成長を予測することなど不可能と言えます。
1期治療の効果で、ある程度は下顎の成長を抑えられたかもしれませんが、
お子様が現状、やや下顎前突で切端咬合になってしまったのは、なるべくしてなったと言えるでしょう。

質問者様の言う通り、矯正治療をすることで、一時的に咬み合わせがフワッとします。
崩れているなりに咬んでいた咬み合わせも甘くなり、咬合時の痛みもあってあまり咬まなくもなります。
咬み合わせが浮いてくると舌癖も生じやすくなりますので、下顎の成長を加速させる可能性があります。
しかし、矯正治療を開始しなくとも、すでに切端咬合になってしまっております。
前歯の重なりが無くなっているということは、そもそも下顎の成長を抑えられない状況になっています。
なので、今矯正をやってもやらなくても成人した時の骨格には大きな差異はないと思います。
受け口になりやすくなるかも、というのは開始時期を決めるうえで重要ではない、ということです。


では、いつ始めるのかを考えた時、治療のやりやすさを重視しましょう。
最近受け口が強くなってきた、ということであれば今後もまだ伸びるだろうと予想されます。
まだ成長余地がある段階で治療を開始すると、治療中に咬み合わせが随時変化していってしまいます。
治療開始時の骨格や奥歯の位置から治療計画を立てますが、その根底が崩れる可能性があります。
例えば、歯を抜かずに進めていたが、追加で下の歯を抜かなければならなくなったり、
逆に、上下で歯を抜いて開始していても、上の歯を抜かない方が良かった、なんてことになってしまいます。
奥歯の位置を正常な位置に治すと、最終的に正常かつ良好な咬み合わせになりますが、
下顎の成長とともに、奥歯の位置が治りにくい方向に変化していってしまいます。
見切り発車で治療を開始すると、変に難易度が上がってしまったり、治療期間が延びてしまいます。

大体、2期治療開始時期というのは、成長を考えなければ永久歯が生え切る12歳ごろが一般的です。
16歳まで2期治療をしてこなかったのであれば、あと2年待ちましょう。
完全に下顎の成長が止まっていれば、前述の成長による変化も生じず、治しやすいです。
本当に一番安全なのは20歳からですが、レイトグロースはそこまで激しくないので、18歳でも大丈夫でしょう。


また、2期治療は抜歯・非抜歯に関わらず、2〜3年かかるものと思ってください。
つまり、今初めても高校生の間には終わらず、受験期も通院する必要があります。
治療開始してある程度経過していれば、慣れてきて勉強への影響もないと思いますが、
高三の冬頃などから受験を考慮して通院を一時停止させたりします。
治療が一時的に停止する、ということは、総治療期間が延びるということです。
高校生の間に終えたくば、高一から始めておく必要があったということになります。

高校生の間に終えるなら、15歳から。これは間に合いません。
写真に残る成人式に間に合わせるなら、今すぐ。成長要素は未知数です。
安全に開始しつつ就職活動に間に合わせるなら、高校卒業から。
完全に安全に開始するなら、20歳から。ただ、大学卒業に間に合いません。
矯正治療は数年かかるため、様々なライフイベントと重なってきます。
いつまでに終わらせるか、という目標から逆算して、治療開始時期を決めましょう。
ただ、未成年期では成長による変化もありますし、成長が止まってから開始したとしても、
やってみたら時間がかかり、実際の治療期間は3年を超えるかもしれず、予定通りにならない可能性もあります。


質問者様はお子様の顎がもっと伸びるのでは、ということを懸念していらっしゃますが、
これは避けようがなく、確実に今よりは伸びるものと思ってください。
下顎以外にも、顔面は成人に向けて変化していきますので、今の顔が完成形ではないのです。
なので、顔が変わる点はどうしようもなく、ある意味心配の必要はありませんが、
治療開始時期によって治療の難しさも変わりますし、いつまでに終わるかが変わります。
成長と受験の影響なく、就職前に完了させるとするならば、高校卒業してから始めるのがおすすめです。

以上を、ご質問への回答といたします。よろしくお願いいたします。
  • トル(16歳 男性 )
  • 2022年07月08日13時10分
栗田先生

とてもわかりやすいご回答ありがとうございます。
手根骨のレントゲンを撮っていただきもうほとんど成長は終わっているとは聞きましたが、まだ身長が父親より5センチ程低いことから私の希望的観測も含めまだ伸び代はあるのではと思った次第です。まだまだ下顎骨も成長するのですね。しかも20歳までとは驚きです…。
主治医からは、
1. 上顎にブラケットをつけて4ヶ月
2. 4ヶ月目に下顎にもブラケットをつけ、上下でゴムをかけて6ヶ月
と言われたので、これから始める場合でも高3の夏までには終了できそうだと簡単に考えていましたが、下顎の成長も加味すると、だらだらと長引く可能性も否めないでしょうか?

よろしければもう数点質問させてください。 

下顎前突の二期治療を歯の移動で治す場合は、下顎の歯を全体的に後方へ動かす治療になりますか? それとも歯の傾斜で治すのでしょうか?

下顎の奥歯の後方にアンカースクリューを樹立しなくても、下顎の奥歯を全体的に後方に動かせるものですか?

ゴムかけは一日何時間やる必要がありますか?学校でもすべきですか?
どのくらいの大変さなのか、受験勉強と両立できるのか正直予想がつかないでおります。当の息子も自ら努力が必要とあらば及び腰になるのが目に見えており不安です。
大学に入ってからという選択肢の方が懸命かも知れないですね。
栗田先生からのご回答を家族で共有させていただき最終結論を出したいと思います。

お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。

ご回答いたします。

成長予測において、手根骨分析は参考程度であまり当てになりません。
また、身長の伸びと下顎の伸びも完全に比例しているとは言えません。
父親の身長を超えないことは珍しくないので、その基準は完全なる負のバイアスです。
色々な分析値から成長は止まっている、と予想されても下顎が伸びるので難しいのです。
絶対に成長による変化が出ないのは、20歳以降です。
2期治療開始後に成長が出れば、そのずれを顎間ゴムで補正することになり、負担も重く期間も伸びます。

口の中を見ていないので何とも言えませんが、2期治療が10か月で終わる訳がありません。
10か月で終わるくらいの超イージーケースなら別ですが、担当医が超名医でも無理です。
なぜならば、人間の歯の移動速度には限界があり、うまくやれば早く治るとかではないからです。
成長により切端咬合になったとするなら、奥歯が2mm前後はずれているはずです。
全顎的に前後に動かし、かつ非抜歯で治すとなれば、2年前後は見た方がいいです。
しかも、それは成長の要素なく、かつ本人が毎日欠かさず20時間以上ゴムを使用した場合です。
担当医の先生がそう言っているので仕方ないですが、そんな甘くないと思います。

断定するには情報が足りませんが、おそらく前歯だけがずれていることなどないでしょう。
上下の歯を全体的に動かす必要があり、当然奥歯から治していきます。
アンカースクリューも使用した方が治しやすいでしょうし、下の親知らずは抜いた方がいいでしょう。
アンカスクリュー無くして下顎臼歯遠心移動をやるとなると、色々な手法を駆使する必要があります。
やり方は色々なパターンがありますが、必ず「20時間以上の顎間ゴム使用」を前提とします。
非抜歯の下顎前突は、それなりに難しいので、ブラケットをつけてゴムを少しやれば治ったりしません。
上の歯並びにでこぼこがあり、下がでこぼこしていなくて、奥歯が正常な位置であれば、
上の歯を前に出して切端咬合を改善し、短期間で終えられると思いますが、
「成長によって切端咬合になった」という言説を信じるなら、おそらくこのパターンではないでしょう。

顎間ゴムは、非抜歯矯正なら「一日20時間使用を毎日欠かさず」となります。
食事と歯磨きの間以外は常に装着し続ける必要があるからです。
使用時間が減ってくると、顎間ゴムの効果は発揮されず、治療は一切進みません。
ゴムを使用している間は歯が動きますが、外している間は元に戻ってしまうためです。
抜歯矯正であれば、抜歯したスペースがあるので、夜間使用でも効果は出ますが、
非抜歯矯正は、隙間が無いところを全部の歯を動かすことになるので、全日使用が必須です。
つまり、本人の努力依存の治療であり、本人が少しでもサボれば治りません。
本人が今すぐにでも治したい、とやる気100%なら成立するかもしれませんが、
本人にそこまでのモチベーションが無いのであれば、2〜3年やっても終わらないかもしれません。
日中もゴムをかけ続けるとなると、それなりにストレスもあるので、勉学への影響も否めません。

そもそも、非抜歯矯正でいいのか?という疑問もあります。
前後のずれが大きくなると、そのずれを改善するために抜歯が必要になります。
また、でこぼこの状態や、口元の突出具合から、非抜歯では口ゴボ状態で仕上がるかもしれません。
軽度のずれで、でこぼこもほとんどなく、口元も出ていないのであれば、非抜歯矯正で良いでしょう。
ずれが大きかったり、でこぼこが強かったり、口元が出ているなら、抜歯矯正が正解かもしれません。
2期治療は、最後の矯正であり、その仕上がった顔と一生付き合っていくわけです。
開始する際には、しっかりと検査・分析・診断し、そのうえでベストなプランを選択すべきです。
もし、抜歯矯正であるなら、2年半前後かかりますし、当然高校生の間には終わりません。

口の中の状態と、ちゃんと検査をしたのか、担当の先生の考えがわかりませんが、
私は高校生の間に終わったりしないと思いますし、下手に非抜歯矯正をやってうまく治らない気もします。
なんだかんだ数年かかったり、結局抜歯矯正に切り替えたりするような未来もありえます。
実際にプランニングして、治療を行うのは、担当の先生ですから、
その先生とよく話し合ったうえで決定することになると思いますが、
私の話を聞き、現段階で治療を開始することに不安を覚えるなら、待つべきです。
なぜなら、特に今開始しなければならない理由がないからです。
  • トル(16歳 男性 )
  • 2022年07月18日00時47分
栗田先生
的確なご回答ありがとうございました。
先生のアドバイスを何度も拝見し、高校生の間は矯正治療を見送ろうと思います。

現在下顎の親知らずは埋伏している状態ですが、今回矯正治療をしない場合でも、根っこができないうちに抜いた方がよいと言われています。
抜く理由は受け口の矯正のため下顎の奥歯を後方に下げるためですが、今抜いた方がよい理由として、親知らずの根っこが伸びる時にその周辺の骨が活性化することで、下顎を大きくする力が働くからと説明されました。
現在16歳ですが、残余成長により下顎が後どれくらい成長してしまうのかを非常に心配していますので、親知らずがあることで更に下顎の成長を助長させてしまうのかと震え上がったのですが、実際に親知らずの成長が(歯列でなく))骨格に影響を与えるということがあるのでしょうか?
実は最初は担当医から、根っこができていない方が楽に抜けるから早く抜きましょうという説明だったので高2の間に抜けばよいかと構えていたのですが、親知らずを残しておくことで下顎を大きくさせるリスクがあると話が変わってきたので、早急に抜くべきか悩んでいます。

また親知らずを抜歯した後、1年半くらいかけて周りの骨が治癒していくと聞きました。骨が完全に出来上がらない段階の方が歯を後方に動かしやすいのでそのチャンスを利用するというような話だったかと思います。ということは親知らずを抜いた瞬間にカウントダウンが始まり、抜いてから1年半以内に矯正を始めた方が下顎の奥歯を後方に動かしやすいのでしょうか? 
そういう縛りがあるならば、親知らずをいつ抜くかが非常に重要になるので戸惑ってしまっています。


1. 親知らずをすぐに抜歯しないと根っこが徐々に伸びる過程で下顎が大きくなる恐れがあるのか?
2. 親知らずを抜歯してから矯正治療を始めるまでの期間にリミットがあるのか? (下顎の歯を後方に動かす治療がやりやすい期間にリミットがあるのか?) 教えていただけると大変有難いです。
お手数をおかけして恐縮ですが何卒ご教授よろしくお願いします。

お答えします。
治療開始時期に関しては卒後の方が集中できると思います。

親知らずがあると下顎の成長が活性化される、というのは初めて聞きました。
私の勉強不足かもしれませんが、あまり理にかなっていない気もします。
下顎骨の成長は、最初からほぼ決まっています。抑えることは不可能です。
全体的に成長していきますが、下顎が前に出ていくうえでメインとなるのは下顎頭の成長です。
12歳手前の成長期に、機能的矯正装置を使用すると、下顎頭の成長を促進できるとされています。
親知らずがあるのは、下顎角もしく下顎枝と呼ばれる位置であり、下顎頭からは離れています。
生まれつき親知らずが無い人も同様に下顎は成長しますし、正直親知らずの有無は無関係と思います。
親知らずを抜いても抜かなくても、下顎の成長するかどうかに影響はないのではないでしょうか。
親知らずが歯を押し、骨ではなく歯が前方移動してしまう可能性はありえます。

また、親知らずを抜くのは、一般的に18歳以降の歯根がある程度できてからの時期です。
なぜならば、歯冠しか形成されていない場合、歯がころころ動いてしまって抜きにくいからです。
世間的にも高校生の間に親知らずを抜いている人はほとんどいないはずです。
なので、歯根が出来る前の方が抜きやすい、という意見も私は正しいとは思いません。
ただ、親知らずの位置が深く、歯根が形成されると下顎神経に接してしまう可能性が高い、
と判断される場合は、早期に抜歯する意味はあるかもしれません。
また、矯正治療で遠心移動が必要な際は、一般的な抜歯時期よりも早期に抜歯することはあります。

親知らずに限らず、歯を抜いた後の方が周囲の歯は動きやすいです。
抜歯直後は周囲の骨代謝が活発化しているので、歯が動きやすいのは間違いないです。
通常の抜歯矯正の際も、抜歯してから傷口の回復を待つことなく、歯を動かし始めるのが理想です。
なので、下顎臼歯の遠心移動も、親知らず抜歯直後の方が動かしやすいです。
すぐに遠心移動が出来るわけではなく、遠心移動の装置を装着してから遠心移動が開始します。
よって、親知らずのベストな抜歯タイミングは、装置を装着して遠心移動の準備が出来てから、です。
比較的動かしやすいだけで、骨が回復しても動かないわけではありません。
生まれつき親知らずが無い人や、数年前に親知らずを抜歯して骨が回復した人たちも、遠心移動は可能です。

担当の先生がおっしゃっていることは、最初の質問からまったく私の考えとは異なります。
私の言っていることは、私の個人的な意見ではなく、矯正的一般論であると思っております。
私が治療するわけではなく、治療を行うのは担当の先生なので、そちらを優先することになると思いますが、
疑問に思うことは疑問のままにせず、安心して治療を受けられるようにしましょう。
親知らずを抜いても抜かなくても下顎の成長に影響はないと思いますし、
早めに抜いてしまっても下顎臼歯の遠心移動は可能です。どちらでもいい、ということですね。

相談を投稿する