2018年6月9日(土)10日(日)の両日、東京国際フォーラムにおいて第36回日本顎咬合学会学術大会・総会が開催されました。今年は「真・顎咬合学 輝け 日本の歯科臨床!!~臨床力の向上による歯科界の活性化~」をテーマに掲げ、歯科界を担う歯科医療のプロフェッショナル達が集結しました。
依頼講演、テーブルクリニック、ランチョンセミナー、認定教育セミナー、企業タイアップ講演など各種様々な企画があり、活気溢れる会場となりました。
2018年6月9日(土)10日(日)の両日、東京国際フォーラムにおいて第36回日本顎咬合学会学術大会・総会が開催されました。今年は「真・顎咬合学 輝け 日本の歯科臨床!!~臨床力の向上による歯科界の活性化~」をテーマに掲げ、歯科界を担う歯科医療のプロフェッショナル達が集結しました。
依頼講演、テーブルクリニック、ランチョンセミナー、認定教育セミナー、企業タイアップ講演など各種様々な企画があり、活気溢れる会場となりました。
今回の題材である「歯周病と全身疾患」を基本題材に、歯周病と糖尿病との相関関係について言及する内容でした。中澤 正絵 氏、西田 亙 氏、関野 愉 氏、伊藤 公一 氏ら4名の講演者がそれぞれの専門分野の視点から講演を行い、聴講者の関心を集めました。
歯科衛生士の中澤 正絵氏による講演から開始しました。「歯科衛生士が取り組む全身疾患」をテーマに、医科歯科連携で行う糖尿病患者への対応について発表を行いました。
中澤氏が勤務する富岡中央病院では、年2回一般外来患者向けに「お口からの糖尿病予防」として中澤氏自ら歯周病についてセミナーを開催し、歯周病予防の啓蒙活動に注力しています。併せて、重度の糖尿病患者向けに糖尿病教育入院も実施しており、その入院プログラムの中に「歯科検診」を盛り込んでいます。歯科検診の内容としては、歯の数や歯周病の状態などの基本検査のほか、粘膜の状態、乾燥度、咀嚼能力、フレイルの状態(握力検査)、嗜好品、歯列不正、歯周病の家族歴なども細かに聞き出し、その内容を内科に報告。歯科と内科が密接に連携したチーム医療を実現しています。
「糖尿病入院患者は中程度から重度の歯周病に罹患している。糖尿病のコントロールが悪化しているほど歯周病の重症度も高い」「歯の本数が少ないと糖尿病が悪化する、よく噛むことと糖尿病の血糖値の数値はリンクしている」と強調されました。
重度の歯周病に罹患していると食物繊維などの硬い物が噛めず、食事内容が柔らかい炭水化物や脂肪中心の内容となります。そうなると、食事の栄養バランスが偏り、さらに糖尿病を悪化させます。
中澤氏はこのような負の連鎖を止めるべく、ブラッシングを中心とした歯周病治療を実践しています。初診時のHbA1cが8.2%であった患者が、僅か2ヵ月間のブラッシングコントロールを中心とした歯周病治療でHbA1cを6%台にまで低下させた例を紹介されました。しかもこの症例は、糖尿病の投薬をせずに得た結果であるとのことです。
HbA1cが1%改善すると糖尿病の関連死が-21%低減します。そのほか心筋梗塞-14%、脳梗塞-12%、血管障害₋37%、下肢切断に至る末梢神経の障害は-43%までリスクが低減できると解説されました。
患者さんが自分自身の口内環境に関心を持ち続け、正しいブラッシングを維持できるよう支援し続けていくのが歯科衛生士としての役割です。歯周病が全身へ与えるリスクを少しでも低減していくという意味において、歯科衛生士が歯周病の炎症をコントロールしていくことは非常に有意義なことです、と述べられました。
ラグビーW杯、東京オリンピック、パラリンピックに向けて盛り上がりを見せている「スポーツ歯学」を題材に、住吉 周平 氏、前田 芳信 氏、小出 馨 氏の3名の講演者が、スポーツ歯学と咬合について熱く講演し、会場を盛り上げました。講演会場は約100席ほど用意されていましたがすべて満席でした。立ち見の方も多く、咬合やスポーツ歯学への関心度の高さをうかがい知る会場でした。
咬合は筋肉や顎関節に影響を与えると同時に脳中枢や姿勢の維持、身体能力にも関係し、全身の機能にも影響を与えます。スポーツ歯科ではスポーツをする以上、顎口腔系に歯科の領域が関与し、正しい咬合を普段から管理していくことが大切です。そして「歯科医師は、競技によって体位や頭位が異なることをきちんと理解し、その上でマウスガードの製作を行うことが重要である」と強調されました。
また、咬合が姿勢維持や身体能力に及ぼす影響について、スプリントを使用したアスリートを例として発表されました。あるアスリートは、右側の癖が強く右側の歯根が破折。顎位の変異により重心バランスを失いパフォーマンスの低下が起こりました。そこでスプリントを使用し、筋や顎関節の位置を修正しました。咬合を再構成した結果、噛み合わせのバランスが改善され、先のオリンピックで活躍できるまで回復したそうです。この症例のように、「噛み合わせを管理することの重要性」が一般的に認識されつつあると解説されました。
また、顎口腔系の筋の過緊張があると筋膜連鎖が生じ、ふくらはぎの下まで筋の過緊張を発生させ姿勢も悪化します。そのことが転倒やパフォーマンスの低下、しいては怪我を生じさせる原因になると語られました。さらに「自分の歯や義歯などで噛み合わせが維持できない方は転倒しやすい」というデータから、転倒が高齢者寿命に及ぼす影響や、要介護や要支援になる要因であることについて言及しました。
1年間に2回以上転倒する認知症の高齢者は咬合が崩壊している人が大変多い、それと比べて1回も転ばない、または1回しか転ばない人は残存歯または義歯により咬合が支持されている、と解説されました。さらに「義歯を入れてきちんと噛めるようになると、転倒する回数が激減した」というデータに触れ、噛み合わせが健康寿命に貢献するという実証であると述べられました。
また、咬合が不調和な方にスプリントを入れると110%程度の咬合力が増強するほか、握力や背筋力においては120%近くも増強するそうです。そのほか、マウスガードなしと調整済みのマウスガードを入れた場合との比較では、調整済みのマウスガードを入れた方が、スクラム力が優位に上がるという研究結果も出ているそうです。さらに、外側広筋の活動性では、マウスガードの調整が出来ている場合と、調整が出来ていない場合の比較において、「マウスガードの調整が出来ている方が筋力が上がった」という結果について触れ、調整済みのカスタムメイドのマウスガードで噛み合わせを整えることの重要性を強調されました。
展示ホールでは91社の企業が出展していました。各社それぞれの最新モデル(※平成30年現在)や強みをいかした特徴ある商品を展示する活気溢れる会場でした。中には体験型のデモンストレーションを行う企業もあり、来場者の関心を引いていました。
メディカルネットでは、矯正歯科ネットの姉妹サイトである「インプラントネット」をはじめ、世界最大の歯科情報メディアである「Dental Tribune」、インプラント治療後の保証サービスを提供する「ガイドデント」もブースを出展。歯科医師、歯科衛生士、歯科技工士をはじめとした歯科関係者の方々にお立ち寄りいただきました。