監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
矯正治療でレントゲン検査を受けなければならないのでしょうか。レントゲン検査での被ばくが気になる方もいらっしゃるでしょう。
レントゲン撮影に伴う被ばく量、矯正治療におけるレントゲン撮影の役割と必要性、レントゲン撮影の種類、実際の検査の流れ、検査に必要な費用を紹介します。
公開日:2024/11/20
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
矯正治療には、目で見ただけではわからない口の中の詳細な情報が必要です。歯の根の状態や顎の骨の状態、虫歯がないかどうかなども矯正治療には大切な情報です。
目で見えない部分を確認することができる代表例がレントゲン撮影です。
3Dで体内の状態を知ることができるCT撮影もあり、歯科では必要に応じてレントゲン撮影とCT撮影を使い分けて使用しています。
患者さんに「レントゲン撮影」と一括りに説明されることもありますが、歯科でのレントゲン撮影には種類があります。
パノラマとは、お口の中全体を一枚の2D写真にするレントゲン撮影方法です。
虫歯の有無、歯周病の進行状況、上下の顎骨の状態、歯の本数、親知らずの有無、永久歯の位置や方向、歯の根や歯の生え変わりの状況、顎関節など、さまざまな情報の確認が可能です。
撮影装置が頭の周囲を回転しながら撮影され、矯正治療のために撮影されることが多く、口の中にフィルムを入れないことから口外法とも呼ばれています。
デンタルとは、小さいフィルムを使ってお口の中の一部分を撮影する方法です。
パノラマと比べると詳細に撮影できるため、より精度の高い情報が得られます。パノラマで疑わしい所見があった部分をデンタルでさらに撮影して確認する、患者さんの痛みなど主訴がある部位を詳しくみるなどで使用されます。
口の中に小さなフィルム(主に3㎝×4㎝が多用されています)を入れて撮影されます。
パノラマよりもお口の中全体を詳しく知りたい場合は、お口の中全体を小さなフィルムで撮影する方法も用いられています。
セファログラムは、頭部を正面と側面から撮影して、骨格や歯の情報を把握するレントゲン撮影です。セファログラムは矯正歯科治療で多く使用されています(一般の歯科医院には設備がないことも多いです)。
患者さんの骨格パターンを把握できる点が大きな特徴で、上下の顎の大きさ・形・ずれ具合に加えて、口元のバランスや前歯の傾斜具合なども確認できます。また、同じ規格で撮影した写真があれば、治療前後の変化を把握することもできます。
CTは、三次元の立体画像を作成できるのが最大の特徴で、パノラマ・デンタルでは確認できない情報を得られます。
歯の状態・角度・位置に加えて、歯の根の長さ、埋まっている歯の正確な位置、顎骨の骨密度の状態や神経との距離なども詳しく知ることができます。
レントゲン治療による放射線の被ばく量が気になる方もいらっしゃるかもしれません。歯科用レントゲンでの被ばく量は、人が日常生活において自然に浴びる放射線量(年間)と比べてもかなり少ない量です。
公益社団法人 東京都歯科医師会の資料によると、デンタル撮影1枚で被ばくする放射線は0.01ミリシーベルト。また、パノラマ撮影では1回につき0.03ミリシーベルト、歯科用CTでは1回につき0.1ミリシーベルトです。
一人当たりの自然放射線量(年間)は、日本での平均が1.5ミリシーベルト、世界での平均が2.4ミリシーベルトのため、歯科用レントゲンの被ばく量によって人体に与える影響は、非常に少ないものと考えてよいでしょう。
歯科矯正でレントゲン撮影を受ける際は、手順があります。以下の流れで撮影を進めていきます。
金属があると、レントゲン撮影の結果に影響を及ぼす場合があります。
ピアス、ネックレス、ヘアピン、金属を含んだヘアゴムといった装飾品を外します。
お口の中のレントゲン撮影では、指輪や腕時計など顔から遠くの装飾品は基本的に外す必要はありません。ただし、デンタルでは患者さん自身にフィルムを指でおさえてもらうケースがあり、その場合にはおさえるほうの手についている指輪は外すよう指示されることもあります。
放射線による影響を抑えるために、防護用のエプロンを装着します。この防護用エプロンは放射線を遮断する「鉛(なまり)」を使用しており、放射線の影響を受けやすい内臓等を守る効果
があります。鉛を使用しているため、やや重たいですがレントゲン撮影の間は装着しておきます。
デンタルの場合は、椅子に座って頭を後ろにつけ、フィルムをお口の中にセットして撮影します。
パノラマの場合はフィルムをおさえることは必要はなく、頭の位置を固定するためにプラスチック製の透明な棒を前歯でくわえて撮影します。
撮影自体は、デンタルが約3秒、パノラマが約15~20秒と、短時間で終わります。撮影終了後は防護用エプロンを外して席に戻り、検査結果が出て医師が診断するまで少し待ちます。撮り直しになることもあるので、指示があるまでは装飾品は外したままにしておくことをおすすめします。
結果は医師から患者さんへと説明されます。さらにデータを基に具体的な治療の説明を受けるでしょう。
歯科のレントゲン撮影は「何か症状があったら撮影する」と思われがちですが、歯に何も問題のない人であっても、パノラマを1年に1回ほどのペースで定期的にお口の中の検査をすることが理想的であるとされています。
矯正歯科治療のためのレントゲン撮影は自費診療となるため、費用は歯科医院によって異なります。高い場合は他の検査と合わせて3-5万円ほどかかる医院もあるようです。
歯科医院によっては、初期検査として無料で受けられることもあります。
矯正歯科でのレントゲン撮影の放射線被ばく量は、自然に浴びる放射線量(年間)に比べてごくわずかです。基本的に身体に悪影響が及ぶ危険性は非常に低く、妊娠中にレントゲン撮影を受けても防護エプロンを装着すれば大きな問題はないとされているため、過度の心配はしなくて良いでしょう。
ただし、検査の際は装飾品を外す必要があったり、防護用エプロンを着用する必要がある点には注意が必要です。また、撮影費用に関しても医院によって異なるため、事前に医師と相談したうえで、納得のいくかたちでレントゲン撮影を受けられるようにしましょう。