監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
子供の頃から、歯並びの悪さがコンプレックスだった。大人になり「金銭的な蓄えもある程度できたし、歯の矯正をやってみたいけど大人になってからでも歯列矯正って可能なの?」そんな悩みをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
お口の中の状態にもよりますが、大人になってから歯列矯正を始めることは可能です。今回は、大人になってから歯列矯正を受ける場合に必要な費用と期間、メリット・デメリット、具体的な治療の流れなどについて、詳しく解説します。
公開日:2024/11/27
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
歯列矯正は、基本的に何歳になっても可能です。ただし、虫歯や歯周病などの影響で歯の状態が悪化していたり、歯を失いインプラント治療をしていたり、病気で薬を飲んでいたりすると歯列矯正が難しくなってしまいます。口や全身の状態が悪くないことが矯正治療を開始するための条件となってきます。
大人の歯列矯正に必要な費用・期間は、上記の表の通りです。
歯列矯正は基本的に公的医療保険の適用外となりますが、医療費控除の申請を行うことによって、実質的な負担を減らすことができます。矯正治療を始める際に医療費控除の対象になるか確認しましょう。
2023年9月 株式会社メディカルネット調べ
歯列矯正の支払いは、大きく分けて3種類です。3つの支払い制度について、詳しく紹介します。
トータルフィー制とは、治療費の総額を最初に支払うシステムです。高額な治療費を一度に支払う必要がありますが、最初に提示した金額以外が基本的に請求されることはないため、治療期間が延長してしまったとしても、調整料など追加の治療費が必要にならない点がメリットです。
処置別支払い制とは、治療を受けるごとに料金を支払うシステムです。治療が長引くと調整に伴う治療費の負担が増え、治療費の総額自体がわかりにくい点はマイナスです。一度に大金を支払う必要がなく、治療期間が短くなればそのぶん金額も安く済み、治療が合わなかったり、問題が生じた場合には、経済的に途中で治療を止めやすいメリットがあります。
デンタルローンとは、住宅ローンや自動車購入ローンと同じように金融機関に料金を立て替えてもらい、その後はクリニックでなく金融機関に分割で支払っていくシステムです。
ローン申請の手続きを行い、審査が通ればローンの支払いをしながら歯列矯正が可能となります。
治療費に加え金利も支払うので総額は割高になるのはデメリットですが、まとまったお金を支払えない場合でも矯正を開始できるので検討してみてはいかがでしょうか。
大人になって矯正治療を始めることによって得られる3つのメリットを詳しく紹介します。
歯並びの悪さをコンプレックスと感じている人が多いです。歯列矯正によって歯並びが改善されれば、コンプレックスを解消できます。
見た目を気にしがちな若年層や接客業など人目に付きやすい仕事に就いている人にとって、歯並びの改善はより大きな意義を持つでしょう。また、コンプレックスが解消されることによって、積極的に他人とのコミュニケーションが取れ、対人関係に自信を持ちやすくなる効果も期待できます。
歯並びが悪いと、歯ブラシの毛先が届きにくい部分ができ、お口の中に汚れが残りやすくなります。さらに、悪い歯並びが原因で口が閉じられず常に口が開いたままの状態になっていると、お口の中が乾燥して唾液の量が減少し、細菌が繁殖しやすくなってしまいます。
そのため、歯列矯正によって歯並びを整えることができれば、歯磨きがしやすくなり、お口の中の汚れも少なくできます。加えて、お口を閉じられるようになることでお口の乾燥を防ぎ唾液の分泌量も増えるため、虫歯や歯周病の予防にもつながります。
子供の歯列矯正は、顎の骨が成長段階にあるため、「早期治療」と「本格治療」の2段階に分かれています。顎が成長する事情もあって、全体的な治療スケジュールが立てにくいことに加え、治療期間も大人に比べて長くなってしまいます。
大人になると顎の骨の成長がすでに完了しているため、医師の指示に従って治療を受けてさえいれば、矯正治療が子供より長くなる可能性は低いです。
大人になってからの歯列矯正の3つのデメリットを詳しく紹介します。
歯列矯正の際に矯正装置を必ず装着します。ワイヤー矯正ではブラケットという歯の表面に四角い装置を接着することが多いです。。
マウスピース矯正や裏側矯正のように矯正装置が透明だったり、ブラケットを裏側で目立ちにくい矯正方法もあります。矯正治療の最中の見た目が気になる患者さんは、あらかじめ担当医に相談し、自分に合った矯正装置を模索してみるといいでしょう。
歯列矯正では、矯正装置で歯に力を加えることによって歯を動かします。個人差はありますが、痛みを感じたり、矯正装置がお口の中に当たって傷がついてしまうことで口内炎になることもあります。
ワイヤー矯正の場合は食事中であっても矯正器具を外すことができないため、器具が中頬や舌などに触れることによって、違和感や不快感が生じることがあります。
ワイヤー矯正の場合は、常に矯正装置を装着したままになるため、自分で装置を外すことができません。歯磨きをする際には矯正器具が邪魔になり、普段よりもブラッシングがしにくくなってしまいます。
また、矯正器具と歯の隙間に食べかすなどの汚れが溜まってしまい、そこから細菌が繁殖します。結果、矯正中は虫歯や歯周病になりやすいです。
大人でも歯列矯正を検討したほうが良いと判断される状態があります。具体的には、以下の2つのケースに該当する場合は矯正治療を考えたほうがいいかもしれません。
歯並びの悪化は見た目の悪さにもつながるため、歯並びそのものにコンプレックスを持つ患者さんも少なくありません。さらに、歯並びの悪さは外見に悪影響を及ぼすだけでなく、虫歯や歯周病などのトラブルを引き起こします。
歯並びの悪さに起因するコンプレックスを解消したかったり、お口の中の健康を改善したいのであれば、矯正治療はまさに必要な治療となります。
出っ歯で噛み合わせが悪いと、上下の歯がかみ合っている場所が少なくなります。食べ物を噛み切る、噛み砕く効率も悪くなり、大きな食べ物が消化器へ送られることになります。胃腸の負担も増し、消化不良の原因になります。
噛みにくさの影響で噛む回数自体が少なくなると、唾液分泌量も減ってしまいます。お口の中の細菌が繁殖し虫歯や歯周病のリスクが高まります。
噛み合わせが悪いといった場合も矯正治療が必要なサインだと考えられます。
大人になってからの矯正治療は、具体的にどんな流れで進んでいくのでしょうか矯正治療の流れを3つに分けて紹介します。
まずは歯科医院を訪れて医師に相談を行います。実際に歯科医師と話をしながら、歯並びや噛み合わせに関する悩みや心配事などを共有し、治療方針や治療期間などに関する説明が行われます。
説明が終わったら、お口の中の詳しい検査のために、口腔内写真・レントゲン撮影、歯型採取といった精密検査を受けます。データをもとに、歯科医院側で数週間かけてさまざまな分析を行い、最終的な診断結果と、具体的な治療計画を作成します。後日、患者さんは最終的な治療計画と治療費の説明を受け、双方が納得・同意したうえで治療を始めていきます。
患者さんによっては、歯列矯正を始める前に、親知らずなどの抜歯や虫歯治療が必要になる場合があります。矯正開始前に治療を受けた後に、あらためて矯正治療を行っていくことになります。
矯正治療を装着する段階に入ったら、ブラケットを装着してワイヤーを通したり、マウスピースを装着したり、矯正方法に応じた処置を受けます。1カ月に1回程度の定期通院を行いながら、少しずつ歯を動かしていきます。
歯を動かす治療が完了したら、歯の後戻りを防止するための、「リテーナー」という取り外しが可能な装置を用いて保定期間に入ります。保定期間中は、最初は3カ月に1回程度のペースで後戻りの状態をチェックします。
歯の健康状態などの条件をクリアすることができれば、歯列矯正は何歳になってからでも始めることが可能です。大人になってからの歯列矯正には、見た目のコンプレックスの解消や虫歯・歯周病予防などのメリットがあります。
一方で、矯正装置の見た目がどうしても気になったり、痛みや違和感が生じたりするかもしれません。ですが、これらの要素は、一般的には先述したメリットを上回るようなデメリットではないと考えられています。
大人になってから歯列矯正を始めたくなったとしても、決して遅すぎることはありません。歯並びや噛み合わせの悪さが気になっている方は、この機会に歯科医院を受診し相談してみてはいかがでしょうか。