監修医師
歯科医師 古川雄亮先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
「来月から歯列矯正を始める予定だけど、矯正中の歯磨きのやり方や食べてはいけないものについて知りたい」
「矯正後に歯並びが戻ることもあると聞いたけど、治療が終わった後のケアはどうすればいいの?」
矯正中は歯と矯正装置の隙間に汚れが溜まりやすくなるため、ケアの工夫が必要です。今回は、矯正中の歯磨き・食事において気をつけるポイントに加えて、矯正治療が終わった後のケアなど、詳しく紹介します。
公開日:2024/10/10
歯科医師 古川雄亮先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
矯正中は、矯正装置を付けるため歯磨きがしにくく、食事を気をつける上で生活に変化が生じるため、ケアを疎かにするとさまざまなリスクが発生します。
矯正装置や歯の間の磨きにくい箇所もしっかりと歯磨きしないと、汚れが溜まりやすくなり、虫歯や歯周病などのリスクが高まります。また、硬いものを食べると矯正装置が外れたりするため、食事も気を配る必要があります。
矯正中に歯磨きを行う際に意識すべきポイントや、オススメの歯磨きの方法について、具体的に紹介していきます。
矯正装置を装着している時期には、歯磨きの前にうがいを行い、大きな食べかすを落としましょう。また、矯正中は装置の周辺に食べかすが残りやすくなるため、食事をした後は必ず歯磨きをする習慣をつけることが大切です。
さらに、矯正中は装置と歯の間に食べ物が挟まることが多いため、手鏡を見ながら歯磨きをして磨き残しを減らすようにしましょう。また、歯磨き粉の量が多いと泡が増えて口の中が見づらくなってしまうので、歯磨き粉の量も抑えめにするとよいでしょう。
歯磨きの際に力を入れすぎると歯や歯肉にダメージを与えてしまいます。軽い力で磨くことも大切です。
ブラケットの周辺を磨くときは、ブラケットに対して斜め45度に歯ブラシを傾け、ワイヤーに沿って毛先を小刻みに動かしながら磨いていきましょう。その際、歯に向かって斜め上・斜め下・正面の3方向から、1本ずつていねいに磨くと効果的です。
ワイヤーと歯の間の隙間を磨く際には、歯ブラシを縦に向けて毛先を通したり、歯間ブラシやワンタフトブラシを使用すると汚れを一層取りやすくなります。
歯と歯肉の境目に対しても、45度の角度からブラッシングを行うと効果的です。また、前歯の裏を磨くときは歯ブラシを縦にして、歯と歯肉の間も含めて1本ずつ磨いていくことを意識しましょう。
矯正装置があると歯ブラシだけで汚れを取り切るのは非常に困難です。
歯ブラシ以外の道具も使ってお口のケアを行っていきましょう。
タフトブラシ
タフトブラシは、1つの毛束のみで構成されるヘッドの小さな歯ブラシです。通常の歯ブラシでは届きにくい部分(一番奥歯やワイヤーやブラケットと歯の間の隙間など)をピンポイントで磨くことができます。
歯間ブラシ
歯間ブラシは、ブラシタイプやゴムタイプがある小さなブラシです。
タフトブラシよりも小さいため、ブラケットの周囲やワイヤーと歯の間の隙間を磨くのに便利です。安価に購入でき、使い捨てタイプのものも多く、清潔に使用できます。
デンタルフロス
デンタルフロスとは、細いナイロン繊維で作られた糸のことです。歯ブラシの毛先が届きにくい歯と歯の間の汚れも、非常に細いデンタルフロスなら落としやすくなります。ホルダータイプと糸巻きタイプの2種類があります(ワイヤー矯正では使用できません)。
洗口液
洗口液を口に含んですすぐことにより、口臭の予防や口腔内の浄化、虫歯・歯周病の予防効果がもたらされます。洗口液は歯磨き後の磨き残し対策に役立つため、矯正治療時にも有効です。
フッ素
歯の表面のエナメル質にフッ素を取り込むことで、歯質の強化や再石灰化の促進効果などが期待でき、虫歯の予防や歯の修復を促すことができます。
「PMTC」とは、歯科医師や歯科衛生士が専用機器を使用して行う歯面清掃のことです。研磨や洗浄、フッ素入りペーストの塗布を行い、磨くといった専門的な処置により、日々のブラッシングで取り除けなかった汚れを取り除きます。たばこやコーヒーなどによる歯の着色汚れも取り除けます。
治療費は場合によって異なりますが、PMTCのみを行う場合は保険が適用されません。5,000~15,000円が相場です。
矯正中は装置を歯につけたまま食事するため、普段とは異なる部分に気を配っていく必要があります。矯正中の食事において特に気をつけるべきポイントについて、詳しく紹介します。
矯正中に硬いものを食べると、歯に負担がかかって痛みを生じさせるだけでなく、装置が外れたり、変形・破損を招く可能性があります。また、粘着性が高いものは矯正装置にくっつきやすいため、矯正中には特に注意が必要です。
繊維質の多いものを食べると、矯正装置と歯の間に挟まりやすくなります。そのため、あらかじめ細かく刻んでおく等の対策が必要です。
加えて、トマトソースを用いた料理やカレーなどの色素が強いものを食べると、矯正装置に着色してしまう恐れがあります。
ワイヤー矯正中は、食事中に痛みが出ることがあります。痛みがある期間は、あまり噛む必要がないものを食べると良いでしょう。おかゆ、雑炊、スープ、ヨーグルト、ゼリー飲料などの軟らかい食べ物を選ぶことで、歯の痛みを避けられるかもしれません。
また、魚や肉などを食べる時にも細かく刻んだり、よく煮込んだりすることによって歯の痛みを軽減できます。
矯正中は矯正器具が口の中の粘膜に当たることにより、口内炎ができやすくなります。ビタミンB2やB6を多く含む食材は口内炎の予防や回復に役立つため、そうした食材を意識して採ってみてください。
具体的にはまぐろ・かつお・バナナ・わかめ・納豆・レバー・ヨーグルト・チーズなどでビタミンB2やB6を摂取。
傷になっている場合は口内炎ケアグッズ(アフタッチなど)で物理的に刺激を遮断することも効果的です。
矯正治療が終わっても安心できません。治療後のケアを怠ってしまうと、せっかく整えた歯並びが後戻りしてしまう可能性があります。
矯正治療を終えた直後の歯はまだ不安定で動きやすいため、後戻りしやすい状態です。後戻りを防ぐために、リテーナーと呼ばれる器具を装着します。リテーナーの装着を怠ってしまうと、歯の後戻りが起きて治療が無駄になってしまう恐れがあります。
リテーナーをつける保定期間は正確に決まっていませんが、できる限り使用を継続しましょう。
口腔習癖(こうくうしゅうへき)とは、歯並びや噛み合わせに悪影響を及ぼす癖のことです。具体的には指しゃぶりや舌を出す癖ですが、それ以外に頬杖やうつぶせ寝、横向き寝、などの習慣があると歯並びや噛み合わせに悪影響が及ぶ可能性が出てきます。
矯正治療で使用するワイヤーやゴムの数倍の力がかかるので、歯は簡単に悪い方向に動いてしまう恐れがあります。口腔習癖を直さないと矯正治療の効果も薄れてしまいます。
口腔習癖を改善することができれば、整えた歯並びの維持にも期待ができます。癖を治せずに悩んでいる場合は、歯科医師に相談しましょう。
歯並びや噛み合わせに違和感を覚えた場合は、後戻りが起こっている可能性があります。後戻りが大きく進んでしまう前に対応することが重要となるため、違和感を感じた時点ですぐに歯科医院を受診し、歯の状態を確認してもらいましょう。
場合によっては再矯正が必要になるケースもあり、歯科医院によっては、後戻り保証をつけているところもあります。まずは歯科医院で現在の歯並びや噛み合わせの状況を把握したうえで、後戻りが起こった場合の対応について確認するとよいでしょう。
矯正中も虫歯や歯周病になる可能性はゼロではありません。むしろ、矯正装置を着用している最中はリスクが上昇するので、歯間ブラシなどの歯ブラシ以外の道具を使用する必要があります。
食べものの種類によっては、矯正装置が外れやすくなったり、変形してしまったりする恐れがあるため、注意が必要です。矯正後は後戻りのリスクがあるので、治療が終わった後も歯科医師の指示に従い、継続してリテーナーを装着するようにしましょう。