監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
矯正歯科治療を受けることを検討しているが、矯正の場合は治療費が高いと聞いたことがある。「実際にかかる費用の相場って、いったいどれくらいなの?」そんな疑問をお持ちの方はいませんか。
矯正歯科治療にはさまざまな種類があり、治療費の相場も利用する治療法に応じて変わります。今回は、矯正方法ごとの治療費の相場、矯正歯科治療に必要な費用の内訳、治療費の支払い体系、確定申告(医療費控除)の制度について解説します。
公開日:2024/08/12
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
原則、矯正歯科治療に公的医療保険は適用されません。治療費は基本的に患者さんが全額を自己負担する必要があります。さらに、矯正治療には長期間の通院が必要になり、患者さんの時間的負担も増すことになります。
特定の条件にあてはまる場合のみ、例外的に矯正歯科治療に公的医療保険が適用されることがあります。「顎変形症」、「国が定める先天疾患に起因している咬合異常」、「前歯および小臼歯のうち3歯以上の永久歯萌出不全に起因する咬合異常」の3つに関しては、公的医療保険の適用によって患者さんが負担する治療費を軽減できます。
矯正歯科治療にかかる費用の相場は、利用する治療法次第で変わります。矯正治療において用いられることが多い4種類の治療法と、それぞれの治療法における治療費の目安を詳しく紹介します。
マウスピース矯正はマウスピース型の装置を着けることによって、歯並びを整えていく治療法です。透明の装置を用いるため目立ちにくく、矯正に周囲に気づかれにくい点が主なメリットになります。一方、噛み合わせや歯並びの状態によって利用できないことがある点に注意が必要です。
治療費の相場としては、全体矯正の場合はおよそ600,000~1,000,000円、前歯の部分矯正の場合はおよそ200,000~400,000円が目安となります。
他の治療法よりも安価で矯正が可能点も、マウスピース矯正の人気が高い一つです。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
表側矯正は、歯の表側にブラケットと呼ばれる装置を取り付け、そこにワイヤーを通して歯を動かす治療法です。矯正治療の中でも最もポピュラーな手法で、幅広い症例に適応できる点が強みです。ただし、使用する装置によっては見た目が目立ちやすく、目立たない色の装置を用いる場合は治療費が高くなります。
治療費の相場は、全体矯正の場合はおよそ600,000~1,300,000円、部分矯正の場合はおよそ300,000~600,000円が目安です。矯正治療全体の中では際立って高い金額ではないものの、マウスピース矯正に比べると治療費はやや高額になる点には注意が必要です。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
裏側矯正は表側矯正とは異なり、歯の裏側にブラケットを装着してワイヤーを通す治療法です。装置とワイヤーが歯の裏側にあるため、表側矯正とは異なり装置が目立ちにくくなります。
裏側矯正には高度な治療技術が求められるため、裏側矯正に対応している歯科医院の数は限られます。治療費の相場は、全体矯正で1,000,000~1,700,000円、部分矯正が400,000~700,000円と、表側矯正に比べて高額になるというデメリットがあります。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
ハーフリンガル矯正は、上顎には裏側矯正、下顎には表側矯正という、2つのワイヤー矯正の手法を活用し治療を進めていく手法です。装置が目立ちやすい上側の歯が裏側矯正になるため、矯正中は目立ちにくくなります。上下を裏側矯正で治療するよりも治療費を低く抑えることができるのがメリットです。
それでも、治療費の相場は全体矯正が650,000~1,350,000円、部分矯正が350,000~650,000円で、マウスピース矯正や表側矯正単独に比べると高額になります。また、下側の歯に関しては表側に装置とワイヤーが配置される点に注意が必要です。
*上記で紹介した金額は地域やクリニック毎に大きく異なります。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
歯科矯正治療にかかる費用は、治療の段階によって大きく異なります。矯正治療の際に必要になる金額の内訳を、具体的な治療のフローに沿って詳しく紹介します。
⇒歯列矯正の詳しい費用内訳については『歯列矯正の費用相場はどれくらい?』の記事をご覧ください。
治療を受ける歯科医院によっては、治療を始める前の段階で矯正治療に伴う治療費が発生するケースが多いです。具体的に、以下の2つのフローにおいて支払いが求められる可能性があることは頭に入れておいた方がいいかもしれません。
矯正治療にあたって歯科医院を受診した際には、実際の治療に先立ってカウンセリングを受け、治療に関する疑問点にまつわる相談や、治療計画のシミュレーションが行われます。歯科医院によっては無料でカウンセリングを受けられるケースがありますが、5,000円程度の費用がかかることもあるため、気になる方は事前に確認しておくとよいでしょう。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
診断料は、写真・CT・レントゲン・MRIなどの撮影、虫歯や歯周病の有無といった、矯正治療を始めるために必要となるデータ収集のための費用です。カウンセリングと同様、医院によっては無料で対応してくれることもある一方で、30,000円から70,000円の費用が必要になるケースもあるため、事前に支払いの有無を聞いておくことをおすすめします。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
矯正治療中にかかる費用は、治療費全体の中でも特に大きな割合を占めることになります。患者さんの金銭的な事情によっては、あらかじめ歯科医院に確認したうえで治療を進めていく必要性が出てきます。
矯正装置料とは、患者さんが治療に使う矯正装置を製作するために必要な費用のことです。矯正装置料は使用する装置によって金額が大きく異なる点が特徴で、マウスピース矯正は300,000~1,500,000円、表側矯正は600,000~1,000,000円、裏側矯正は800,000~1,500,000円、ハーフリンガル矯正は800,000~1,300,000円の費用が必要になってきます。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
歯列矯正を始めた後は、矯正装置によって歯を動かすことによって歯列全体の矯正を行います。そのため、1ヵ月に1回程度の頻度で歯科医院に足を運び、歯列の状況に応じてワイヤーの種類や曲がり方を調整する必要があります。調整料・処置料とはこの際にかかる費用のことを指す言葉であり、1回につき3,000円~10,000円程度が相場です。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
無事に矯正治療が終了したとしても、その後さらなる治療費が必要となるケースも少なくありません。矯正治療後に歯科医院に対する支払いが生じる可能性がある具体的なシチュエーションとしては、以下の2種類が挙げられます。
矯正治療が終了した後は、歯の後戻りを防ぐための「保定期間」と呼ばれる時期に入ります。保定装置料とは、この際に用いる器具である保定装置の製作に必要な費用のことを指します。保定装置にはマウスピース型、ワイヤー型、プレート型といったさまざまな種類が存在し、安い場合は無料、高い場合は60,000円程度が保定装置料の相場です。
2024年7月 株式会社メディカルネット調べ
保定期間中は、3~6ヵ月に1回程度のペースで歯科医院を訪れ、経過観察が必要です。保定観察料はこの経過観察の際に必要となる費用であり、歯科医院によっては無料で済むケースもありますが、場合によっては3,000円から5,000円が必要になることもあります。気になる方は治療前の段階で確認しておくとよいでしょう。
矯正歯科治療の支払い体系には、大きく分けて2つの種類があります。利用の際に生じるメリットとデメリットがあり、2つの支払い体系の特徴をしっかりと把握したうえで、より自分に合った選択肢を利用しましょう。
トータルフィー制(治療費総額制)は、初回診察料を除いた矯正治療の費用全体を、治療開始前の段階で全額支払っておく料金制度です。全ての費用を事前に支払うことになるため、当初の想定よりも治療が長引いてしまった場合であっても、追加の費用を支払う必要がない点が大きなメリットになります。
治療にかかる費用が後になって膨れ上がる心配がない一方で、治療前にまとめて全額を支払う都合上、矯正治療にかかる高額な治療費を一括で支払わなければならない点には注意が必要です。場合によっては100万円以上の額を一度に払う必要が出てくるため、事前にまとまった資金を用意しておかなければ利用できない支払い方法です。
処置別支払い制は、治療のフローごとに必要となる金額を、その都度支払っていく料金制度です。一括で多くの金額を支払う必要がなく、1回の支払額を比較的少なく抑えられるという点は、資金を用意しやすい点で大きなメリットです。
一方、処置別支払い制はトータルフィー制とは異なり、1回の通院ごとに調整料・処置料を支払う必要があります。何らかのトラブルが発生して治療が当初の計画よりも長引いた場合、予定よりも治療費の総額が大きくなる可能性があります。
矯正治療には多額の治療費が必要ですが、確定申告の「医療費控除」を利用することによって、所得税の還付が可能です。1年で支払った医療費の合計額が10万円を超えた場合に、対象となります。
矯正治療で医療費控除が適用になるケースは、噛み合わせの改善が目的である場合に限られます。審美面の改善が主な目的の場合は医療費控除の対象にならないため、医療費控除が適用されるかを担当医に事前に確認することをおすすめします。
基本的に矯正歯科治療は公的医療保険の適用外となるため、患者さんが負担する費用は高額になります。どの矯正方法を利用するかによって治療費が大きく異なりますが、全体矯正を選択すると1,000,000円以上の費用が必要になることも多いです。
矯正治療を受けて医療費控除により経済的負担を抑えたい場合は担当医に相談するといいかもしれません。
矯正治療は長い期間がかかるため、費用が安いことだけを重視せず、信頼できる歯科医師を慎重に選びましょう。