監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
「もうすぐ矯正治療が終了し保定期間に入るので、どの種類のリテーナーを使うか悩んでいる。歯の裏側にワイヤーを装着するタイプのリテーナーが気になるけど、ワイヤー型を使うメリットって何?」そのような疑問をお持ちの方はいませんか。
ワイヤーを歯の裏側に装着するリテーナーには、審美面と機能面の両方で大きなメリットがあります。ワイヤー型リテーナーの基礎知識に加えて、ワイヤー型のメリット・デメリット、使用されやすいケース、よくある質問を解説します。
公開日:2024/07/25
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
矯正治療が終わった後にリテーナーを使う最大の理由は、歯の後戻りを防ぐためです。せっかく矯正治療によって歯の位置を綺麗に動かしても、そのまま放っておくと歯が元の位置に戻ろうとする力が働いてしまいます。
せっかく矯正した歯の後戻りを防ぐためにリテーナーで動かした歯を動かないようにする(保定する)必要があります。
リテーナーにはさまざまな種類があり、長所と短所も異なります。透明で目立ちにくい「マウスピース型」、プラスチック製のプレートとワイヤーを組み合わせた「プレート型」、そしてワイヤーを歯の裏側に固定する「ワイヤー型」の3つが主な種類です。
ワイヤーを装着するタイプのリテーナーは、元々歯並びがでこぼこになっていて抜歯が矯正治療で必要な場合など、後戻りが起こりやすい状態において特に有効です。一方で、装置が外れる可能性がある、歯石が付着しやすくなるといったデメリットもあるため、患者さんに応じてワイヤー型を用いるか否かを判断します。
▼『ワイヤーを裏側に付ける必要性や、リテーナーのみで問題ないのか』に関しての質問は、こちらをご参照ください。
歯の矯正治療終了後に、歯の裏側につけるワイヤーについて
歯の裏側にワイヤーを装着するタイプのリテーナーで特に注目すべきメリットは以下の2種類です。
ワイヤー型のリテーナーでは歯の裏側にワイヤーを通すため、外から装置が見えることはほぼありません。口元の見た目に影響を与えることなく、矯正治療が終わった直後から見た目を気にせず他人と日常会話ができる点は、審美面における大きなプラスです。
ワイヤー型のリテーナーを患者さん自身が取り外すことはできないため、リテーナーを装着し忘れたり、装着をさぼってしまう可能性もありません。うっかりミスを未然に防ぎ、後戻りが起こるリスクを軽減できるため、自己管理能力に自信のない人には強くおすすめできます。
ワイヤー型のリテーナーには、メリットだけではなくデメリットもあります。この項目では、ワイヤー型を用いることで生じる可能性がある、2つの点を取り上げていきます。
ワイヤー型のリテーナーでは、ワイヤーを歯の裏側に直接取り付けます。ただし、接着の劣化などの影響で装置が外れてしまうケースがあり、何らかの違和感がある場合は、できる限り早く担当医に相談する必要があります。
東京歯科大学水道橋病院矯正歯科における保定患者の来院動向によると、「保定管理時の予定外来院理由」という項目において、固定式リテーナーの脱離が38.7%と、最も大きな割合を占めていました。装置の脱落はワイヤー型のリテーナーをしている患者さんにとって大きな問題です。
参考:東京歯科大学水道橋病院矯正歯科における保定患者の来院動向
ワイヤー型のリテーナーでは、装置を直接歯に固定し、装置の取り外しも行われないため、周囲に食べ物のカスや歯石などが残りやすくなります。そのため、装着中はお口の中における歯石や歯垢を取りにくく、「プラークコントロール」が難しくなり、お口の中の環境が悪化しやすくなります。
ワイヤー型のリテーナーを使用しながらお口の中の環境を良好に保つためには、普段から丁寧に歯磨きを行う必要があります。定期的に歯科医院に足を運んでメンテナンスを受け、ワイヤーの破損状況なども一緒に確認してもらうことによって、リテーナーの使用に伴うリスクを大きく減らすことができるようになります。
保定期間においてワイヤー型が使用されやすいケースは次が代表的です。
歯並びのでこぼこが強かったり、抜歯後に歯と歯の間にできていた隙間が再度開く恐れがある患者さんの場合は、通常の患者さんよりも後戻りのリスクが高まってしまいます。
ワイヤーで保定するタイプのリテーナーであれば、取り外しが可能なリテーナーよりも、歯の後戻りを予防する効果が高いです。矯正後も歯並びにおける懸念材料が残っている患者さんに対しては、ワイヤー型のリテーナーがお勧めです。
ワイヤー型のリテーナーの場合、いくつか気を付けるべき点があります。ワイヤー型を使用するに際して患者さんから質問されることの多い2つの問い合わせを紹介します。
リテーナーの装着期間には具体的な期間はなく、矯正で歯を動かした期間であったり、2~5年などクリニックにより様々です。もう後戻りを起こす心配はないと担当医に判断されるまで続きます。装着期間中は、お口の中の衛生状態や装置の状態(破損有無)などを確認する必要があるため、メンテナンスを兼ねて数カ月に1度は歯科医院に通院する必要があります。
ワイヤー型のリテーナーに必要な金額の相場は、約2~6万円です。歯科医院によっては、矯正治療の治療費の中にリテーナーの製作費も含まれているケースがあります。気になる人は、事前に担当医に確認しておくといいかもしれません。
2024年5月 株式会社メディカルネット調べ
矯正治療後は歯の後戻りを防ぐためにリテーナーの装着が必要になります。リテーナーにはさまざまな種類がありますが、そのうちの一つである歯の裏側にワイヤーを装着するリテーナーには、見た目への影響がほぼないことや、付け忘れがないことなどのメリットがあります。
一方、装置が外れてしまう可能性があったり、プラークコントロールが難しかったりといった、ワイヤー型のリテーナー特有のデメリットもいくつか存在します。矯正治療によって得られた綺麗な歯並びを維持するためにも、メリットとデメリットを天秤にかけたうえで、自分に適しており使用を継続できるリテーナーを選択していきましょう。