非抜歯矯正の3つの方法は?非抜歯矯正できる歯並びも紹介

矯正治療の治療を相談した歯科医院で「抜歯が必要」といわれることがあります。抜歯をすることでより理想に近い治療結果が得られる場合は、抜歯を勧められるでしょう。

でも、自分自身の歯を病気の治療以外で抜くことに抵抗がある方も少なくないでしょう。そこで、歯を抜かずに矯正治療ができるのが「非抜歯矯正」です。非抜歯矯正とは何か、非抜歯矯正で本当に治療ができるのかどうかなどについて紹介します。

公開日:2024/07/11  更新日:2024/07/24

監修医師

歯科医師 古川雄亮 先生

国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開

目次

  1. 非抜歯矯正とは?
  2. 非抜歯矯正の方法は3つ
  3. ①歯を後ろに移動させる
  4. ②歯の側面を少しだけ削る
  5. ③顎を拡げる
  6. 非抜歯矯正ができる歯並びの例
  7. 反対咬合(受け口)
  8. 叢生
  9. オープンバイト(開咬)
  10. 非抜歯矯正の3つのメリット
  11. 抜歯を避けられる
  12. 治療期間の短縮や費用の軽減につながる
  13. 心理的な負担を減らせる
  14. 非抜歯矯正の5つのデメリット
  15. 口元が出てしまうことがある
  16. 後戻りのリスクが高くなる場合がある
  17. 歯肉退縮が起こる恐れがある
  18. 歯がしみるようになることがある
  19. 噛み合わせが悪くなる
  20. まとめ

非抜歯矯正とは?

矯正治療では、歯を抜く「抜歯矯正」と歯を抜かない「非抜歯矯正」があります。

抜歯矯正では、歯並びや噛み合わせのために健康な歯を抜く「便宜抜歯」でスペースを確保して矯正治療を行います。便宜抜歯では前から4番目、5番目の小臼歯と呼ばれる歯を抜くことが多く、左右同じ本数抜くケースがほとんどです。
場合によっては既に大きな虫歯がある歯や根の先に病巣がある歯など、ほかの歯に比べて寿命が短い可能性が高い歯を抜歯することもあります。

一方、非抜歯矯正は自分自身の歯を抜かずに矯正治療を行います。自分自身の歯を抜くことに抵抗がある方や抜歯の痛みが怖い方などは非抜歯矯正を希望される方も少なくありません。

非抜歯矯正はどのような方法でスペースを確保するのか、どのような歯並びの治療が可能なのか、メリットデメリットについても詳しくみていきましょう。

非抜歯矯正の方法は3つ

非抜歯矯正では歯を抜いてスペースを確保することができません。
では、どのように歯を移動するスペースを確保するのかについてご紹介します。

①歯を後ろに移動させる

まず1つ目に、歯を全体的に後方(喉側)に動かすことでスペースを確保する方法があります。
奥歯を後ろに下げることによって片側2㎜、全部で4㎜程のスペースを作り出すことができるといわれています。親知らずが生えていたり歯1本1本が大きい場合は歯を下げられる量が少ないなど、どのくらい後ろに移動させることができるかは個人差があります。

歯を後ろに移動させるには、アンカースクリューと呼ばれる矯正治療用のチタンで作られた小さなネジを歯茎に埋入し固定源にして歯を引っ張ったり、ゴムかけをしていきます。

②歯の側面を少しだけ削る

2つ目は、複数の歯の表面を少しずつ削ることでスペースを作る方法で、IPRやディスキングなどとも呼ばれています。

歯の表面の白い部分は「エナメル質」という硬い層でできており、1mmほどの厚さがあります。そのうちの0.1~0.2㎜ほど削ることでスペースを作っていきます(最大で合計0.5㎜削ることもあるといわれています)。

わずかに削るだけならエナメル質の機能に問題はなく、知覚過敏になったり削るときに痛みを感じることはありません。ですが、削りすぎてしまうと知覚過敏が発生することがあるので注意が必要です。

③顎を拡げる

非抜歯矯正ができる歯並びの例

非抜歯で歯を並べるスペースを確保できることがわかったので、次に非抜歯矯正がどのような歯並びの悪さに対応できるのかをみていきましょう。

反対咬合(受け口)

通常、歯を噛んだときは上の歯が下の歯を覆うような状態になります。上の歯が下の歯を2~3㎜ほど覆っていると正しい前歯の噛み合わせだといわれています(6㎜を超えていると過蓋咬合であるとされます)。

反対咬合は、それとは反対に下顎の歯が上顎の歯を覆っている状態のことです。受け口とも呼ばれ、下顎が前に突き出ている「しゃくれ」のような見た目になることもあります。
骨格性の場合は外科手術が必要ですが、歯並びが原因の場合は矯正治療で反対咬合を解消できるでしょう。

叢生

一般的によくいわれる「歯並びが悪い状態」です。
歯が並ぶスペースがなく歯が前後に重なるなど、凸凹になってしまっていることを「叢生(そうせい)」といいます。

歯が重なっている部分は歯磨きが難しく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。また、著しく歯列から外れている歯は、頬や舌を噛んでしまうこともあります。
抜歯や上記でご紹介した方法でスペースを確保することで、歯をすべてきれいに並べ、叢生を解消することができるでしょう。

オープンバイト(開咬)

奥歯をかちっと噛み合わせたときに、上の前歯と下の前歯の間に隙間が空いてしまうことをオープンバイト(開咬)といいます。

上下の前歯が噛み合わないため食べ物を噛み切れなかったり、空気が漏れてしまい発音に影響が生じる場合があります。
また、奥歯にかかる負担が多く、奥歯がかける、割れるなどの可能性が考えられます。

矯正治療で奥歯を圧下(歯茎の中に沈めること)、前歯を挺出させる(歯茎から引っ張り出す)などすることで解消できることがあります。

非抜歯矯正の3つのメリット

非抜歯矯正でも歯が並ぶスペースを確保して様々な歯並びに対応することができますが、非抜歯矯正にはメリットとデメリットがあります。

抜歯を避けられる

非抜歯矯正の最大のメリットは、「健康な歯を抜かずに済む」ということです。歯は失うと取り戻せないため、歯を抜きたくないという方も少なくありません。

非抜歯矯正であれば歯を抜かずに矯正治療を進めるため、自分自身の歯を失わずに矯正治療を受けることができます。抜歯に恐怖を感じる方も矯正治療が受けられるでしょう。

治療期間の短縮や費用の軽減につながる

矯正治療のための抜歯は便宜抜歯と呼ばれ、健康のために抜くのは必要でないとして公的医療保険が適用されないことがほとんどです。
そのため、矯正治療の費用のほかに抜歯の費用がかかります。さらに、矯正歯科医院で抜歯に対応していない場合は別の歯科医院に通院が必要となり、初診料や検査費用がかかる可能性があります。

また、抜歯後は骨や歯茎がある程度治ってから歯を動かすため、治癒期間が必要です。そのため、非抜歯矯正は抜歯矯正に比べて矯正治療の期間が短くすむことがあります。

心理的な負担を減らせる

抜歯と聞くと不安感を抱く方も少なくないでしょう。抜歯が必要になると、それだけで歯科医院の受診をためらう人もいるでしょう。

非抜歯矯正は抜歯矯正よりも気持ちの負担を減らせる可能性があります。

非抜歯矯正の5つのデメリット

一方で、非抜歯矯正には5つのデメリット(リスク)も考えられます。非抜歯矯正のデメリットをチェックしていきましょう。

口元が出てしまうことがある

本来非抜歯では矯正治療ができない場合に非抜歯矯正を選択してしまうと、本来歯があるべき位置よりも外側に歯が並んでしまうことがあります(正しい歯並びのアーチよりも一回り大きなアーチ状になってしまう)。すると、口元が盛り上がって見える、頬を噛みやすくなる、噛み合わせが悪くなるなどが考えられます。

無理に非抜歯矯正を選んだ結果、口元が気になるようになった、笑った時に歯が見える量が増えて見栄えが悪くなった、唇が閉じづらくなったなどのトラブルが起こることがあります。

後戻りのリスクが高くなる場合がある

無理な非抜歯治療によって十分なスペースがない場所に歯を並べると、後戻りしやすくなるといわれています。
後戻りは通常の矯正治療でも起こりますが、より注意が必要となります。

歯肉退縮が起こる恐れがある

非抜歯矯正の方法によっては歯茎が下がる歯肉退縮につながる場合もあります。歯茎が下がることでブラックトライアングルができてしまったり、歯が長く見える、歯の根が歯茎から出てしまい知覚過敏になるなどのトラブルが起こることがあります。

歯がしみるようになることがある

非抜歯矯正でIPR(ディスキング)を行うと、人によっては知覚過敏が引き起こされる場合があります。通常IPRは削っても影響がない範囲で行いますが、エナメル質の厚みや神経の敏感さは個人差があり、痛みを感じることも稀にあります。

噛み合わせが悪くなる

無理な非抜歯矯正では上下の噛み合わせが悪くなることがあります。
通常は噛み合わせを考慮した矯正治療を行いますが、無理に非抜歯矯正を行うとただ見た目が良くなるよう歯を並べることとなり、上下の歯が噛み合わなくなることがあります。

非抜歯矯正を選ぶ場合は、上下の歯の噛み合わせも考慮して選択するようにしましょう。

まとめ

非抜歯矯正は歯を抜かずに歯並びを改善することができる治療法です。
抜歯が怖くて治療が受けられないという方は、まずは非抜歯矯正で治療ができるかどうかを相談してみてはいかがでしょうか。