監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
「歯並びの悪さを手軽に改善する手段を調べてみたら、ミューイングという方法があることを知った。ミューイングをすると、いったいどんなメリットが得られるの?」そんな疑問をお持ちの方はいませんか。
ミューイングは舌のトレーニングの一つで、さまざまな効果が得られます。今回は、ミューイングについての基礎知識とメリット、舌の位置に問題がある場合に生じるデメリット、そして具体的なミューイングの方法について、詳しく紹介します。
公開日:2024/07/11
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
ミューイングとは、矯正歯科医のマイク・ミュー氏と大学教授のジョン・ミュー氏が考案した、舌の位置や姿勢に関するメソッドです。適切な舌の位置を得るためのトレーニング法によって、顔面や顎の正常な発達を促すことが目的です。
ミューイングで舌の筋肉を鍛えることによって、舌を正しい位置に保持できます。舌は咀嚼運動や嚥下運動を補助し、構音器官としての役割や、歯列の位置を一定に保つ機能があり、舌の持つさまざまな機能の改善・向上も期待できます。
ミューイングを行うことで鍛えられる筋肉は舌だけではなく、表情筋なども考えられています。歯列に加えて、フェイスラインや姿勢なども改善される可能性がある点はミューイングの大きなメリットです。
基本的な舌の位置に問題がある場合、歯並びが悪化しやすくなります。舌の位置の影響で歯並びが悪くなる具体例としては、以下の3種類です。
空隙歯列はいわゆる「すきっ歯」で、歯と歯の間に隙間ができる状態です。先天的な歯の欠如、非常に小さい歯の存在、重度の歯周病による歯の傾斜、舌を前に出す癖などで、空隙歯列が発生するリスクが高まるとされています。
上顎前突はいわゆる「出っ歯」で、上の歯が下の歯よりも大きく前に出ている状態です。指しゃぶりや口呼吸、などが原因ですが、唇を上下の歯の間に挟む癖があったり、唇や舌の部分における筋肉の不調和によって歯に圧力が加わっていると、上顎前突を発症する可能性が高くなってしまいます。
開咬とは、奥歯で噛みしめた状態であっても、上下の歯の間に隙間がある状態のことを指します。原因としては、遺伝、指しゃぶり、ものを噛む筋肉が弱いなどに加えて、発音や飲み込みの時に舌を前に出すような癖で開咬になりやすくなると考えられています。
悪化した歯並びを放置した場合、さまざまなリスクが生じます。とりわけ大きな問題となりうる5つの要因について、具体的に説明していきます。
歯並びの悪さは、そのまま見た目の悪さにも直結します。自分の歯並びに自信がないことがコンプレックスとなってしまい、お口を押さえながら会話をするようになってしまう人もいるため、歯並びを整えることは、コンプレックスを気にせず日常生活を送ることにもつながっていきます。
歯並びが悪いと、歯磨きの際に磨き残しなどが発生しやすくなります。それによって、お口の中で細菌が繁殖すると、虫歯や歯周病を発症する可能性が増大します。また、歯並びの悪さが原因で口呼吸が習慣になると、お口の中が乾燥しやすくなり、細菌の繁殖を防いでくれる唾液の分泌量が減少するため、虫歯や歯周病の発生リスクが高まってしまいます。
歯並びや噛み合わせが悪い人の場合、上下の歯が噛み合っている場所が少なくなります。噛み合う部分が少ないと、ものを噛み砕く際の効率が悪くなります。咀嚼効率が低下し、食べ物が大きな塊のまま消化器官に送られるケースが多くなるため、胃や腸にかかる負担もより増します。
噛み合わせが悪かったり、上下の前後的な噛み合わせが逆になっている人の場合は、特定の音を発音しにくくなることがあります。発音の悪さは見た目と同様に、人によってはコンプレックスにつながってしまう可能性があるため、日常生活において大小さまざまな悪影響が生じます。
歯並びが悪いと「顎関節症」という病気を発症するかもしれません。顎関節症になると、口を開けにくくなったり、肩や首が凝りやすくなります。先天的な顎の歪み、顎関節の成長不全、日常的なストレス、歯ぎしりや食いしばりの癖なども顎関節症の原因になり得ます。
ミューイングを行う際には、舌・姿勢・腹筋という3つに気を配ります。舌を根元の部分から上顎のくぼみの部分にぴったりとくっつけることを意識し、舌を正しい位置に固定することが、ミューイングの基本的な流れです。
食事の際には舌を下げた状態で食べ物を入れ、飲み込む際に舌を上に戻すことを心がけることによって、舌を使って咀嚼する感覚を会得することも重要です。食事の際に迎え舌にならないこと、飲み物を飲む時に舌先が歯に触れないように意識することも、それぞれミューイングを行ううえで大切なポイントです。
ミューイングは舌周りの筋肉をトレーニングする際に優れた効果を発揮するメソッドですが、あくまでトレーニングの一種であって、医療行為ではありません。歯並びをしっかりと改善したいのであれば、矯正治療を提供している歯科医院で診断を仰いだうえで、矯正治療を受けることを検討したほうがよいでしょう。
ミューイングは舌を鍛えるトレーニングであり、舌を適切な位置に置くことを習慣づけることによって、舌の機能改善や向上が期待できます。舌の機能性や舌回りの筋肉は、歯並びの悪化にも直結する要素となるため、それらを改善できる点がミューイングの大きな利点となります。
ただし、ミューイングはあくまでトレーニングの一種であり、医療行為ではない点には注意が必要です。ミューイングだけで歯並びの改善を行うことは難しい可能性が高く、歯並びの悪さが理由でミューイングに興味を持ったのであれば、矯正治療を受けることも視野に入れておくといいかもしれません。