監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
骨格の不正と矯正治療について紹介しています。歯並びが悪くない(乱食いではない)から矯正治療の対象にならないというわけではありません。
公開日:2019/10/01 更新日:2021/11/16
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
目次
私は、友達からビーバーちゃんって呼ばれているのですが、昔はかわいくて好きだったあだなも最近はそう呼ばれるのがなんとなく憂鬱なんです・・・。だからいつもは、意識して口を閉じるようにしています。食事中に時々口から物がこぼれてしまうことがあるけど、奥歯では普通に噛んでいて、特に問題はないです。
叢生(歯並びがでこぼこしていること)もなく、奥歯の噛み合わせも正常に近い状態です。
横から見ると口元が少し出っ張っている感じです。
矯正治療では、まず患者さんの骨格を見ていきます。骨格を見るといわれてもピンとこないかもしれませんが、顔全体を見てその中に占める歯の三次元的な位置関係を考えているのです。
ヒトの顔は、おおまかにいうと3階建てでできています。頭蓋骨・上顎・下顎という3層構造の中で、その基準となるのは頭蓋骨です。建物と異なり3階が基礎となっているわけです。その基準にそって1階(下顎)と2階(上顎)が下に位置しますが、それぞれの大きさや形は個人差があります。
この考え方から1階と2階をそれぞれ「標準」「大きい」「小さい」とタイプ別に分けると下の図に示すようにすべてのヒトはこの9つの中のどれかのタイプに属すということになります。ただし、基本的には標準・出っ歯・受け口の3つのうちのいずれかに該当します。
歯列は1階と2階にそれぞれ独立しておかれているわけですから、同じように見える上顎前突(いわゆる出っ歯)の患者さんでも、実際は上顎の骨が大きいというよりも下顎の骨が小さいために前突が生じている場合もあるのです。
矯正治療ではまず、歯並びの悪さ(乱食い歯の状態)の解消を行いますが、顔の中でどこに歯列があるべきか?というアプローチも同時に考慮しています。患者さんの鼻から下を透明人間としたら、その患者さんにとって理想的な上下歯列の位置が特定の場所に存在するはずです。矯正治療は、その位置になるべく近い場所に歯列を並べようを考えるわけです。
したがって、歯並びが悪くない(乱食い歯ではない)から矯正治療の対象にならないとうわけではないということが、おわかりいただけると思います。
ビーバーと呼ばれる方の場合、主に上顎の発達が優位で、上の歯列は理想的な位置より前方へ出ている可能性が高いです。下も上の発達に伴い、前に出ていることも考えられます。前方に出すぎてしまった前歯を奥へもっていくために、上顎骨がやや大きくても、歯を後ろへ移動させることによって、カモフラージュします。
「復顔術 」をみなさんはご存知でしょうか?犯罪捜査などで頭蓋骨から生前の顔を再現していくものです。できあがった顔は非常に再現性が高いといわれています。これはヒトの顔つきは、骨格の形が決定的な要素となっているということを意味しています。ここで重要なのは、歯も生体の硬組織として骨格形と同等の立場にあるということです。
例えば、Bさんのケースは、歯の位置が前に出ているいるせいで、周囲の筋に緊張感を与え、また物理的にも口元の突出を作ってしまっています。
このような状態を定量化する簡単な方法に「Eライン(esthetic line)」があります。鼻の頭と顎先を結んだ線からの唇の距離を評価します。
日本人のEラインは、白人と比べると鼻が低いため、下唇が線と接するとキレイ(もしくは、線より2mm程度前方が良い)とされています。
矯正治療が結果を出せば、口元の軟組織はより理想へ近い方へと動いていき、同時に周囲の筋の緊張も解消に向かうと思われます。