監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
矯正治療中に妊娠した場合、矯正治療はどうなるのでしょうか。
矯正治療は長期間継続して治療を受ける前提で治療方針が決定されていますが、妊娠中は歯科への通院が続けられなくなることも少なくありません。
さらに、出産後は子育てで忙しくなり、時間が取れるか心配ですよね。
妊娠している間も矯正治療はできるのか、矯正中に妊娠したらどうしたらいいのか、詳しく解説します。
公開日:2023/07/03
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
目次
まず、妊娠中であっても矯正治療を受けることはできます。
妊娠したからといって必ずしも矯正を中断しなければいけない、なんてことはありません。
ただ、矯正治療の計画の変更は必要です。
妊娠中は妊娠前と同じように通院ができるわけではありません。
歯科への通院は安定期が推奨されています。
妊娠初期(1~4か月)や妊娠後期(8~10か月)は通院はおすすめされていません。
普段の通院間隔にもよりますが、多くの場合は1~2か月に1度は通院しているかと思います。
それが6か月分、回数にして3~6回分、通院が少なくなります。
通院回数が少なくなるということは、治療終了がその分遅くなるのです。
治療完了が遅くなるのであれば、妊娠していることを黙っておいて妊娠中も治療を受け早く終わらせたい…と思ってしまうかもしれませんが、妊娠初期や後期の歯科通院は母体にも赤ちゃんにも思わぬトラブルを招く可能性があります。
また、下記でご紹介しますが、妊娠中には避けるべき治療もあるため、妊娠が分かった時点ですぐに歯科医師に報告してくださいね。
もしも歯科医師が男性で言いづらい、話す時間がとれないように感じる、話しかけづらいなど何かある場合は、受付や歯科衛生士、歯科助手の女性に伝えるのでも大丈夫です。
妊娠中の矯正治療で気を付けたいポイントもあるのでみていきましょう。
上にも記載しましたが、妊娠中も矯正治療はできますが、妊娠初期の通院は避けましょう。
体調が安定していても、治療途中でも通院を控えるケースがほとんどです。
妊娠初期は流産の危険性も高いですし、歯科は薬品の特有の匂いがあるため、普段あまりつわりがない方でもつわりを誘発してしまう可能性があります。
妊娠が発覚したら歯科医院へ連絡し、
・妊娠したこと
・次の予約のキャンセル
・安定期はいつ頃か
を伝えておきましょう。
ただ、妊娠初期はイコール妊娠発覚時であり、予期しない妊娠の場合は急遽通院ができなくなるということです。
矯正治療は、通常は4か月も通院ができなくなる前提での治療になっていません。
そのため、特にワイヤー矯正などは、調整具合によっては4か月放置することで思わぬ歯の動き方をしてしまうことも考えられます。
お口の中や歯を守るために、体調が安定している時に短時間、器具の調整をさせてほしいといわれることもあるかもしれません。
その場合はメリットデメリットを聞いたうえで、通院するかしないかを患者さん自身で判断し、通院する場合は自身の体調と相談して通院しましょう。
妊娠中はホルモンバランスが変わるため、歯磨きが体調不良で疎かになりがちで、虫歯や歯周病などのお口の中のトラブルが起こりやすくなります。
矯正器具を装着しているだけでも歯磨きがしづらく虫歯や歯周病のリスクが高い状態ですが、妊娠でリスクがさらに高くなると考えておきましょう。
つわりによってお口の中が酸性になったり、歯磨きをすると気持ち悪くなる、食べづわりでずっと何かを食べ続けてしまう、などで虫歯や歯周病になりやすくなります。
また、お口の中が乾燥して矯正器具による口内炎ができることも考えられます。
矯正治療自体は問題がありませんが、それに伴うトラブルについて理解したうえで治療を続けてくださいね。
妊娠中は安定期でもつわりのような症状が続く場合もあり、精神的に不安定になることもあります。
また、虫歯や歯周病のリスクも高まるため、妊娠中はいったん治療をやめておきたい、という場合はどうしたらいいのでしょうか。
もちろん、妊娠中は矯正治療を中断することは可能です。
中断の方法は様々です。非常に稀ですが、完全に装置を外して中断するパターン、通院間隔を2か月にしてトラブルがあった場合のみ調整するパターン、矯正装置はそのままに歯が移動しないように処置をして出産を終えるまで中断するパターンなど、歯科医院や患者さんの治療によって選択していきます。
一般的なのは、矯正器具を付けたまま中断する方法です。
矯正器具を外して中断する場合、後戻りしてしまわないようにリテーナーを装着する必要があるほか、出産後に再度矯正器具を取り付けるため、時間と手間がかかります。矯正器具の取り外しの費用やリテーナーの作製費用がかかることもあります。
安定期は仰向けで寝た状態になってもそこまで苦しくならないといわれています。
また、安定期になるとつわりの症状がおさまり、歯科医院特有の匂いが気にならなくなったり、お口の中を触られることも平気になる傾向にあります。
そのため、妊娠がわかり妊娠初期に中断した治療は安定期(妊娠中期)、5~8か月頃に再開するのが一般的です。
ただ、もしも調子が悪いと感じるようであれば、安定期でも通院は避けましょう。
出産後に再開する場合は母体の調子が落ち着いたころ、出産後に1~3か月ほど経ってから再開することが多いでしょう。
出産直後は母体の負担やストレスが大きいため、無理に通院する必要はありません。
矯正治療では、治療を始める前から綿密に治療計画を立てています。
歯の動きに応じて矯正装置を調整しているため、無断で通院をやめてしまうと調整ができず、思わぬ方向に歯が動いてしまうかもしれません。
通院できない期間を歯科医師に共有しておく必要があるため、妊娠初期や出産予定日など通院できない期間や、安定期に入って通院できそうな期間などをはっきりと伝えておきましょう。
伝えておくことで治療計画の早めの変更が可能になるなど様々なメリットがありますよ。
また、伝えておくことで妊娠中に予約のキャンセルが多くなってしまったとしても、歯科医師との信頼関係を崩さずにすむはずです。
患者さん側としてもキャンセルを言い出しやすくなるはずですので、事前に伝えておきましょう!
矯正治療は安定期であれば可能ですが、妊娠期間は常に避けておくべき治療もあります。
妊娠を歯科医師に伝えることで配慮してくれるはずですが、万が一に備えて知っておきましょう。
妊娠中は基本的に麻酔を避ける傾向にあります。
一般的な歯科治療で使用する麻酔は「局所麻酔」とよばれ、部分的に効かせる麻酔です。
そのため、胎児や母体への影響はないという報告がされています。
しかし、麻酔薬の取扱説明書には「妊娠中の投与に関する安全性は確立していない。」と記載されており、必ずしも安全であるとはいえないようです。
使用方法も、リスクよりも有益性(麻酔の必要性)が上回る場合にのみ使用すること、となっており、なるべく使わないほうがいいという見解なのです。
お口の状態によっては麻酔を使うこともありますが、避けられるのであれば避けておくようにしましょう。
矯正治療では、麻酔を使わなければならないほどの痛みは基本的には伴わないため、麻酔を使用する場面はあまりありません。
ただ、矯正治療で顎骨にアンカースクリューとよばれる器具を埋め込む時、装置を付けるために歯肉を切開する時には、麻酔を使用することがあります。
放射線は胎児への影響があるため、妊娠中は放射線被ばくは避けることが必要です。
レントゲンやCT撮影は、わずかではありますが放射線被ばくを受けます。
ですが、お口の中をレントゲン撮影する場合、お腹との距離が離れているうえ、お腹のあたりには放射線を遮断できる鉛の入ったエプロンを装着することで、胎児への影響は非常に少ないとされています。
また、近年のレントゲンやCTの装置は被ばく線量が少なくなっており(人が年間に自然に被ばくする量は2.4mSv、デンタルレントゲンは1枚あたり0.01~0.02mSv)、その量は国内旅行で飛行機に乗るときよりも少ないのです。
妊娠中のレントゲン撮影は問題ないとされているため、歯科医師は妊娠中もレントゲン撮影を提案してくるかもしれませんが、不安なことなどあれば、はっきりと伝えてくださいね。
妊娠6~12週は特に胎児が影響を受けやすい時期といわれているため、レントゲンの影響はほとんど無いでしょうが、心配ならそれ以外の期間に検査を受けてみてはいかがでしょうか。
矯正治療では女性の患者さんも多く、治療期間中に妊娠が発覚することは珍しくありません。
妊娠中は通院ができなくなることは歯科医院も理解していますので、ためらわずに伝えてください。
妊娠が分かったら、できるだけ早く伝えるようにしておきましょう。
治療の中断が想定される時期は、妊娠初期と出産直前~出産後などです。
安定期になってもつわりなどが重く辛い場合は、歯科医師に相談して通院時期を決定していきましょう!