監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。
歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。
2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
公的医療保険が適用される「顎変形症」。
でも、顎変形症でも公的医療保険が適用されず、自費診療で矯正治療を受けることになるケースもあるんです。
一体どのような場合に公的医療保険が適用されるのか、どのような場合に公的医療保険が適用されないのかをご紹介します。
公開日:2022/07/25 更新日:2022/08/01
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。
歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。
2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
歯科矯正は、原則として保険を適用できません。ただし、顎変形症(顎の歪みに起因する口腔機能の異常)や、国が定める一部の先天性疾患(生まれつきの病気)に起因した不正咬合には保険が適用されます。
矯正治療で保険が適用される疾患には以下のようなものがあります。
[国が定める先天性疾患]
・唇顎口蓋裂
・ダウン症
・筋ジストロフィー
・トリーチャ・コリンズ症候群
・骨形成不全症
・顔面裂(横顔裂、斜顔裂および正中顔裂をふくむ)
・6歯以上の永久歯の先天性部分(性)無歯症
など、そのほか59疾患
顎変形症とは、上下の顎の骨の大きさや形、位置のバランス関係に異常がでており、噛み合わせなどの口腔機能においても問題が生じている状態です。
顎変形症の代表例としては、下顎が上顎よりも前に突き出る下顎前突(反対咬合)、いわゆる受け口(骨格の歪みによって前歯が咬まない位の重度の受け口)があります。
顎変形症になると噛み合わせが乱れてしまい、食べ物をしっかり噛めなくなったり、発音(発声)がしづらくなるなど、口腔機能に問題が生じます。
顎変形症は遺伝的要素が強く関係すると考えられていますが、はっきりとした原因は解明されていません。
先天性の疾患が原因でなることや幼少期の口呼吸・指しゃぶり・舌癖などの悪いクセで顎変形症になるという考えもあります。
また、成長期に顎を強く打ったり、顎関節に何らかの疾患があると、顎の左右の成長バランスが崩れ、顎変形症になり得ます。
国が定める先天異常(生まれつきの異常)やその他の疾患の59疾患の中に顎変形症はふくまれています。
矯正歯科で顎変形症と診断された場合は矯正歯科や口腔外科・形成外科など、各医療機関での治療に保険が適用されます。
顎変形症と混同しやすい症状には「顎関節症」があります。
顎関節症とは、顎関節から音がする、顎を動かす筋肉(咬筋など)や顎関節部が痛む、口を大きく開けられないといった症状が特徴の疾患です。
顎関節症は顎の関節および顎を動かす筋肉の異常であり、顎変形症とは異なります。
顎関節症は国が定める59疾患の中にはふくまれておらず保険が適用されないため、注意が必要です。
顎変形症かどうかを判断するには、矯正歯科での診察および診断が必要です。
矯正歯科での診断が必要な理由は、顎変形症かどうかを判定するには下顎前突(受け口)や上顎前突(出っ歯)など、不正咬合による噛み合わせの状態を詳しく検査する必要があるためです。
矯正歯科では、頭部のレントゲン撮影や歯並びの確認、咀嚼(そしゃく)機能の検査などが行われます。
顎変形症の治療は、まず、矯正歯科で歯並びを治すための術前矯正を行います。
次に、口腔外科もしくは形成外科での顎矯正外科手術(骨切り手術)にて顎の骨格的な歪み是正しつつ、噛み合わせの改善をはかります。
術後矯正において、歯並びや噛み合わせの細かい仕上げを行い、顎変形症の治療が完了します。
上記は重度の顎変形症の治療の流れです。
軽度の顎変形症で外科的手術が必要ない場合には矯正歯科治療単独で治せる場合もあります。
ですが、顎変形症と診断されるとほとんどの場合は顎の外科的手術が必要となります。
・厚生労働省指定の「顎口腔機能診断施設」でのみ、保険適用で顎変形症の治療が受けられます。
・保険適用の顎変形症の治療は以下の流れで行うことが定められています。
手術前の矯正治療(矯正歯科での歯科矯正)→外科手術(口腔外科・形成外科での外科手術)→手術後の仕上げの矯正治療(矯正歯科での歯科矯正)
・保険で外科手術を受けるには、口腔外科もしくは形成外科と治療を受けた矯正歯科が連携していることが条件です。
・保険による歯科矯正は表側矯正(ワイヤー矯正)のみです。マウスピース矯正や裏側矯正は保険適用外です。
・途中で顎変形症を疑い改めて検査を受け、顎変形症と治療途中で診断された場合、健康保険の適用となります。
自費診療として支払った費用は歯科医院から患者さんへと返金し、歯科医院は改めて保険適用の患者負担金を患者さんに請求します。
ただし、外科矯正治療を受けない場合は保険適用でなくなるため、自費での治療費用を支払う必要があります。
顎の歪みが軽度で歯並びや噛み合わせに大きな異常がないものは顎変形症が適応にならないこともあり、保険適用になりません。
歯並びや噛み合わせの異常が顎の歪みによって引き起こされたものではない場合、顎変形症ではないため保険適用されません。
「顎が歪んでいる」「噛み合わせが悪くて噛めない」「顎変形症に違いない」と感じていても、顎変形症ではない可能性があります。
顎変形症は顎の歪みだけではなく、歯並びや噛み合わせに異常がでていること、なおかつ、歯並びや噛み合わせの異常が主に顎の歪みによって引き起こされていることが大きな診断基準です。
保険で顎変形症を治療する場合、「口腔機能を正常にする(そしゃくや発音などの機能面の問題を改善すること)」が主目的です。
見た目を整えることが主目的の審美治療には適用されません。
ご自身の顎の歪みが顎変形症かどうかを知りたい場合は、まずは顎口腔機能診断施設に認定された矯正歯科で診察を受けてみることをおすすめします。
その上で、顎変形症と診断された場合には保険適用で治療を受けるかを決めると良いでしょう。