監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
矯正治療では、さまざまな矯正装置や器具の中から患者さんの症例に適したものを歯科医師が提案し、治療を進めていきます。その中には「アンカースクリュー」と呼ばれる小さなネジがあります。
アンカースクリューは歯を移動させるための矯正器具ですが、局所麻酔後に顎骨に埋入して使うということもあり、不安を感じる患者さんもいます。
アンカースクリューによる矯正治療の仕組みや、一般的な矯正治療にはないメリットなどについて、詳しく解説します。
公開日:2022/03/28
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
アンカースクリューとは矯正治療に使用する金属製の小さなネジのことで、その大きさは直径1~2mm、長さ6~10mmほど。チタンというアレルギーの出にくい生体親和性の高い金属で作られています。
アンカースクリューを顎骨に埋入し、歯を動かすときの固定源として使用します。矯正治療での使用目的を果たした後、顎骨からアンカースクリューを取り出すことになります。
出っ歯を治すための矯正治療で前歯を動かす場合、通常は奥歯を固定源として前歯を動かします。しかし、固定源である奥歯も歯列のひとつなので、少なからず前歯に引っ張られて前に動いてしまいます。出っ歯を改善するために前歯だけを後ろに動かしたいのに奥歯が前に動いてしまうと前歯を後退させる量が減ってしまいます。
一方、アンカースクリューは顎骨に埋め込むので、固定源が動いてしまう心配がありません。出っ歯の改善のために前歯だけを優先的に後退させることが可能です。
アンカースクリューを使用しなければ、前歯6本をまとめて奥歯と綱引きで引っ張る場合、固定源の奥歯も移動してしまう可能性が高いです。
できる限り奥歯が前に移動させないようにする場合、犬歯を先に動かした後に残りの4本の前歯を動かす方法をとるため、二段階での治療となります。矯正用アンカースクリューを使用する場合は前歯6本をまとめて移動できるので、治療期間が短縮されます。
前歯のみの後方移動や、骨の中に歯を押し込む(圧下の)ような難しい歯の移動でもも、矯正用アンカースクリューを用いることで十分可能になります。さらに、ネジを埋め込む位置を調整することで、さまざまな方向から歯を引っ張ることもできます。
アンカースクリュー無しで奥歯をさらに後方に動かして前歯に隙間を作るような治療は難しく、隙間を作るための小臼歯抜歯が必要なケースが多々ありました。矯正用アンカースクリューは奥歯の後方への移動もできるため、歯を抜かずに矯正できる可能性が高くなります(後方移動には限度があります)。
顎骨にネジを埋入することを想像すると、痛そうに思えますよね。しかし、アンカースクリューを骨に埋め込むときには麻酔を使用します。
局所麻酔を含めスクリュー埋入にかかる時間は5~10分程度なので患者さんへの負担も少なく、痛みも感じません。少なくとも、抜歯したり歯を削ったりする時よりも不快感は少ないといってもよいでしょう。
埋入後に麻酔が切れてくると痛みや違和感はあるものの、1週間程度で慣れて不快感も減少します。ただし、痛みには個人差があるので抗生物質や鎮痛剤などを処方されることもあります。
口ゴボとは、出っ歯などのように口元が前方に出ている状態を指します。口ゴボという言葉に定義はありませんが、唇が突き出ている、鼻の下が長く前に飛び出している、といった見た目を総じて口ゴボと呼ぶことがあります。横から見た場合にこうした特徴は顕著になり、上唇がドームのように湾曲してもっこりした感じになります。
口ゴボの場合、口元を後退させる矯正が多くなるので、従来は抜歯矯正で改善をすることが多かったですが、アンカースクリューを活用した非抜歯矯正治療も適していると考えられます。難症例の口ゴボでは、手術が必要になったりヘッドギアを装着しなければいけなかったりしますが、アンカースクリューを使うことで通常の矯正によって治療できるケースもあります。
口元の突出感が改善されるほか、口ゴボに伴う「たらこ唇」も解消されることもあります。口ゴボが治ると唇を閉じられるようになるので、口元が気になっていた方のコンプレックス解消にもつながります。
アンカースクリューは、矯正治療の際に顎骨に埋め込むネジのことで、ネジを絶対的な固定源にして前歯のみを安定して移動させることができます。矯正治療期間の短縮や難症例への対応、固定源が動かない、といったさまざまなメリットが想定されています。ただし、アンカースクリューを埋入するための処置が必要となります。処置自体は10分程度で終わり簡便なものです。
顔を横から見たときに口元がもっこりする、いわゆる口ゴボの改善にも向いているので、美しい横顔を手に入れたいと考えている方は歯科医師に相談してみるとよいでしょう。
この記事で、矯正治療で使用されるアンカースクリューに対するあなたの疑問が少しでも解消されたら幸いです。