監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
転んで歯がぐらついた、強く歯をぶつけた、そんな覚えはありませんか?
歯は強い衝撃が加わると、骨とくっつくアンキローシス(骨性癒着)を起こすことがあります。
アンキローシスしている歯は、矯正治療で歯が動かない原因になることも。
アンキローシスは何が原因で起こるのか、アンキローシスしているかどうかの診断方法、アンキローシスしている歯は矯正治療はできる?など、詳しく解説します!
公開日:2021/11/29
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開
目次
アンキローシスとは、骨と歯が直接癒着して結合している状態です。
歯ぐきの内側には歯槽骨という骨があり、歯を支える役割を果たしています。
正常な場合、歯根と歯槽骨の間には、クッションとなる歯根膜という線維の膜があり、歯根と歯槽骨はつながっています。
しかし、歯に何らかの損傷を受けて歯根膜を失うと、歯根と歯槽骨がくっついてしまいます。
この状態が「アンキローシス(骨性癒着)」と呼ばれています。
乳歯に生じた場合には永久歯が生えることを妨げ、噛み合わせが悪くなるなどの影響も。
また、歯の外傷によりアンキローシスの疑いがある場合、歯列矯正ができないと言われることもあります。
歯列矯正では、通常は歯根膜という組織が圧をかけることで歯が動いていくのですが、アンキローシスを起こしている歯は歯槽骨とくっついているために歯根膜がなく、歯を動かせないことがあるのです。
ですが、絶対に矯正治療ができないわけではありません。
アンキローシスしている歯の矯正治療については下記でご紹介しているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。
アンキローシスを起こす多くの原因は転倒や事故などの外傷です。
転んで歯をぶつけたり、交通事故にあったりなどで歯に強い衝撃が加わると、歯根膜が損傷することがあります。
また、衝撃で歯が抜けて再植処置をした場合には歯根膜が元通りにならずに、アンキローシスを起こすことがあるのです。
歯が抜けたり位置がずれたりするなどの見た目の変化がなく、すぐに忘れてしまう程度の衝撃でもアンキローシスを起こしているケースがあります。
外傷以外にも、歯が生えてくる過程で何らかの炎症が生じることで、アンキローシスが起こることもあります。
また、虫歯が歯根まで進行してしまうことによって、歯根膜を失うことも。
その他、原発性萌出不全という、歯が生える途中で突然アンキローシスが起こり、歯の高さが足りないまま止まってしまうという例も考えられます。
もし、歯の高さが足りずに噛み合わせに問題がある場合には、アンキローシスが疑われます。
また、アンキローシスは原因がわからずに起こっている場合も少なくありません。
歯根の一部がアンキローシスを起こしている場合には、歯根と歯槽骨の結合を剥がすために、一度意図的に歯を脱臼させる方法があります。
脱臼後に再びアンキローシスしてしまう前に歯を動かすことで、矯正治療が可能になるとされています。
歯根が広範囲にわたって歯槽骨とくっついている場合には、CT検査などで歯根の形状を把握したり、歯根と歯槽骨の硬さや色の違いを見極めたりして、歯根と歯槽骨を切削器具を使って分離したうえで脱臼させます。
ただし、アンキローシスを起こしている部分が硬化しているような場合は、脱臼させることは難しいでしょう。
歯を脱臼させられない場合は、骨と歯を剥がすことができず、歯は動かせません。
どうしても歯が動かせない場合は、動かない歯を抜歯してインプラントやブリッジなどを行い、動く歯だけ歯列矯正する方法もあります。
アンキローシスは画像検査だけではわからないこともよくあります。
逆に、CTでは歯が骨と癒着していても、程度が軽ければ動くこともあるのです。
また、アンキローシスしている歯を金属で軽く叩いた時の音も参考になります。
歯根膜がない歯は音の振動が伝わりやすく、高い金属音が聞こえます。
この方法は参考にはなりますが、確実なアンキローシスの診断はできません。
最終的には、アンキローシスしている可能性のある歯に一度矯正器具を付け、移動させるための力を加えた時に動くかどうかを診て判断することが多いでしょう。
そのため、歯列矯正のカウンセリングの際も、「とりあえず一度動かしてみよう」と言われることがあるようです。
アンキローシスはCT検査によって判断できる可能性があるため、CTを設置している矯正歯科の受診をおすすめします。
アンキローシスがあった場合には、どのようにして歯を動かすのか、動かなかったらどうするのか、など詳しい治療方針や、治療にかかる追加費用などを事前に確認しておくことが大切です。
「聞いていない話もあって、思うような治療にならなかった…」という患者さんの例もあるため、医師と話し合い、納得してから治療を開始しましょう。
アンキローシス(骨性癒着)は矯正治療ができないケースもありますが、矯正方法を変えたり、インプラントやブリッジと併用することで希望する歯並びにすることができることもあります。
アンキローシスであることを知らずに始めてしまったり、治療方針の確認をしないで始めてしまうと思わぬトラブルに繋がることもあるため、矯正治療を始める前の事前の検査をしっかり受けるようにしてくださいね。