監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
「裏側矯正」とは、歯の裏側に矯正装置を装着して矯正治療を行う方法です。
裏側矯正のメリット・デメリットは、歯の表側に矯正装置を付ける表側矯正とは異なります。
想像していた矯正治療と違った、なんてことにならないよう、裏側矯正のメリットやデメリットについて詳しく紹介します。
公開日:2019/10/01 更新日:2023/07/20
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
目次
裏側矯正の最大の特長は、目立ちにくく、周囲から矯正装置を付けていることに気付かれにくいということです。裏側矯正は「舌側矯正」や「リンガル矯正」とも呼ばれています。
一般的な歯列矯正では、歯の表側にブラケットとワイヤーを装着して歯を動かすので、矯正装置が目立ってしまいます。
ですが、裏側矯正では歯の裏側に矯正装置を取り付けるため、表側矯正に比べて矯正装置が目立ちにくくなります。
大きな口を開けなければ、相手から矯正装置が見えることはほとんどありません。
そのため裏側矯正であれば、接客業や営業職など、職業的に矯正治療が難しいとされている人前に立つことの多い職種の方々でも矯正治療が行える可能性が高くなります。
「歯列矯正には興味があるけど、矯正装置の見た目が気になって治療に踏み切れない」という方は、装置が見えにくい裏側矯正を検討してみてはいかがでしょうか。
裏側矯正はこれまで見た目がネックで矯正治療をためらっていた方におすすめです。
一般的な表側矯正の治療費の目安は、地域、使用する材料、歯科医師の実績などにより大きな差があり、600,000~1,000,000円となっています。
それに対し、裏側矯正の治療費の目安は、800,000~1,500,000円前後と、表側矯正と比べて治療費が高めです。(2023年5月 株式会社メディカルネット調べ・費用は歯科医院によって異なります)
なぜ裏側矯正は高額なのか。
その主な理由として、「技術料が高く設定されている」「裏側矯正の装置がオーダーメイド」などが挙げられます。
歯の裏側は歯の表側に比べてデコボコとしていて形が複雑です。
既製品の装置では対応できないことも多く、矯正装置を個々の患者さんに応じて作る必要があります。裏側に装着するので施術も表側より難しく、歯科医師の技術や1人ひとりに適した矯正装置が必要になるケースが多いようです。
詳しくは、以下「裏側矯正のデメリット」で紹介していきます。
裏側矯正の場合、噛み合わせによっては表側矯正よりも治療に時間がかかることがあります。
表側矯正では2年ほどかかる場合、裏側矯正では平均2~2.5年かかる可能性が高いでしょう。
裏側矯正のメリットは目立ちにくいことだけではありません。
始める前に知っておきたい裏側矯正のメリットを4つ、ご紹介します。
裏側矯正では、矯正装置が歯の裏側につきます。
大きく口を開けた時に見えたり、光が当たる角度によっては光って見えるなど全く見えないわけではありませんが、表側矯正に比べて気が付かれにくく、見た目に大きな影響なく矯正治療をすることができます。
もちろん、笑ったり写真を撮ったりしても目立ちません。
日常生活の写真から、結婚式や卒業式など重要な写真を撮る予定がある場合は、裏側矯正を検討してみてもいいかもしれません。
また、矯正装置をつけていることを周囲に気づかれたくない、職業的に表側の矯正はNGなど、目立つ矯正ができない方も裏側矯正であれば矯正治療がを受けられる可能性が高いでしょう。
矯正装置をつけると、どうしても矯正装置の周りに歯垢が残りやすくなり、虫歯や歯周病になりやすくなってしまいます。
歯の裏側は常に唾液が循環しています。
唾液が食べカスを洗い流してくれるほか、唾液の殺菌作用や再石灰化作用など歯の裏側の方が唾液の作用を受けやすく虫歯菌が増殖しにくいため、表側矯正よりも裏側矯正のほうが虫歯や歯周病になるリスクが低いといわれています。
とはいえ、歯磨きをおろそかにすると当然虫歯のリスクは高まります。裏側矯正でも丁寧に歯磨きすることをおすすめします。
出っ歯の方に多く見られるのが「舌の癖」です。
舌で前歯を押す癖によって出っ歯を引き起こす可能性があることをご存知でしょうか。
口を閉じてリラックスした状態の舌は、上の歯の付け根から少し奥に下がった「タングスポット」といわれる位置にあるのが正常です。 しかし舌の癖があると舌は歯の裏側にあり、舌の力で前歯を押すことになります。
頬と唇の外側からの力と、舌による内側からの力が均衡する位置に歯は並ぶという考え方(バクシネーターメカニズム)があります。舌で歯に強い力をかけ続けていると、この均衡が崩れて歯が前方へ傾き、いわゆる「出っ歯」になってしまいます。
舌の癖を治さない限り、いくら歯並びを整えても舌の力で後戻りが生じてしまいます。裏側矯正では歯の裏側に装置がついているので、歯の裏側に舌を押し当てる癖を抑制する効果が期待できます。
矯正治療中の舌の癖が改善されることで、矯正装置を外した後の後戻りのリスクも減る可能性がありますよ。
良いことが多いように感じられる裏側矯正ですが、メリットだけではなくデメリットも存在しています。
矯正を始めてから「やっぱり表側矯正にすればよかった」と後悔しないためにも、矯正を検討する段階でメリットやデメリットをしっかりと把握しておくことが大切です。
裏側矯正で起こり得る5つのデメリットをご紹介します。
裏側矯正では、歯の裏側に矯正装置を付けます。そのため、装置を取り付けた直後は特に舌に違和感を感じやすいでしょう。
また、舌が裏側の矯正装置に接触して粘膜に傷がつき口内炎ができることがあります。
個人差はありますが、矯正装置をつけてから1~2週間ほどで違和感は薄れていくといわれており、早い方であれば1週間以内で慣れる方もいます。
眠れない・食べられないほどの痛みや違和感を感じる場合は早めに歯医者さんに相談してください。
歯の裏側の装置が邪魔になり、舌を歯の裏側にあてて発音する言葉が不明瞭になることがあります。特に「さ行、た行、ら行」の言葉、英語では「th、lの発音」に影響が出やすいです。
ただし「発音のしにくさ・話しにくさ」もずっと続く訳ではなく、数週間以内で慣れるといわれています。
食べ物が装置に絡みつく、噛みにくいなどの食事のストレスは、表側矯正も裏側矯正も共通です。具体的には、硬い物が食べづらかったり、麺類や繊維質の食べ物が装置の周りに絡みついたり、誤って頬や舌を噛んでしまうこともあります。
一方で、矯正装置が歯の裏側に付いているため、「汚れが目立ちやすい」という精神的なストレスは軽減される傾向にあります。
歯の裏側は自分自身では見えづらく、矯正装置を付けると歯みがきがより難しくなります。
磨き残しや歯垢は虫歯や歯周病、口臭の原因となるため、矯正治療中は特に丁寧に歯磨きを行う必要があります。
自分自身での歯磨き(セルフケア)で取り残した汚れを取るため、定期的に歯科医院で専門的なクリーニングを受けると良いでしょう。
さらに、担当の歯科衛生士や歯科医師に個々の歯並びに合ったデンタルグッズの選び方や使い方を教えてもらうことで、より効果的なセルフケアを目指してみてください。
裏側矯正では、表側矯正に比べて約1.5倍の費用がかかるといわれています。歯の裏側はデコボコしていて形が複雑なため、既製品のブラケット(歯に装着する装置)を使うことができないことがあります。
裏側矯正では患者さん一人ひとりの歯並びに合わせたオーダーメイドの装置を作ることが多く、その分治療費が高くなってしまうのです。
また、歯の裏側は処置が難しく、技術と時間がかかることも治療費が高額になる理由のひとつです。
裏側矯正の装置の装着方法には大きく分けて、「フルリンガル」「ハーフリンガル」の2種類があります。噛み合わせや治療中の見た目などを考慮し、自分に合った矯正の種類を選ぶことが大切です。
「フルリンガル」「ハーフリンガル」」の2つの特徴やメリット・デメリットを確認しておきましょう。
「フルリンガル」は、上下ともに歯の裏側に装置をつける裏側矯正です。表側から矯正装置が見える可能性はほとんどなく、矯正治療をしていることが気づかれにくいのが最大のメリットです。
抜歯が必要な場合や歯並びが複雑な場合など、治療が難しいケースを含めて幅広い症状に適応しています。
ただし、表側治療に比べて矯正装置に汚れが溜まりやすくなったり、会話や食事の際に違和感を感じやすい点には注意が必要です。
「ハーフリンガル」は、他人から見えやすい上の歯だけ裏側に矯正装置を装着し、下の歯は表側に矯正装置を付ける治療法です。上下両方とも裏側矯正にするよりも費用が安く済む傾向にあります。
舌の当たりやすい下の歯は表側に矯正装置があるので、フルリンガルの場合よりも口の中の違和感が小さくなります。
ただし、下の歯の矯正装置は歯の表側に装着するため、フルリンガルより気付かれやすく、目立ってしまいます。
裏側矯正治療の流れは、以下のようになっています。
1.カウンセリング
2.精密検査
3.治療計画の説明
4.ブラッシング指導、クリーニング
5.矯正装置の製作
6.矯正装置の装着・調整
7.保定期間
まず始めに、患者さんの口の中の状態を確認したうえで、矯正治療の基本的な流れについて説明します。その後は、レントゲンや歯型模型の製作などの精密検査を行い、診断結果に基づいた治療計画の説明を行います。
まずは矯正装置が装着され、その後は都度通院しながら装置の調整をしていきます。
治療期間が終了したら矯正装置を外しますが、そこで治療が終わるわけではありません。
歯の後戻りを防ぐための「保定期間」では、日常的にマウスピースなどの保定装置(リテーナー)を使用することに加え、定期的に通院して経過観察を行います。
裏側矯正では痛みはないのか、抜歯は必要なのか疑問を抱いてる方も多いのではないでしょうか。ここからは、裏側矯正にまつわるよくある質問と、その回答を紹介していきます。
裏側矯正でも歯を動かすことに変わりはなく、表側矯正と同様に歯を動かすための痛みを感じることが多いでしょう。
歯の裏側に装着した矯正装置に慣れるまでは、舌が装置に当たったり、口内炎ができて痛みを感じることもあります。
抜歯が必要かどうかは、患者さんの歯並びや噛み合わせなどによって異なります。そのため、抜歯の有無に関しては「患者さんによる」でしょう。
出っ歯や口ゴボの場合は、抜歯が必要な可能性が高いでしょう。
表側矯正では抜歯が必要で、裏側矯正にしたら抜歯が不必要になるケースは基本的にはありません。
抜歯に不安がある方は、治療の初期段階におけるカウンセリングで不安がなくなるまで、担当の歯科医師とよく相談することをおすすめします。
裏側矯正では、歯の裏側に矯正装置を装着します。そのため、基本的には通常の歯と変わらずにキスをすることができるでしょう。
ただし、キスの仕方によっては相手の舌を傷つけてしまうことや、自分自身が痛みを感じる可能性があります。極力軽いキスにとどめることを意識したり、矯正装置の調整後など痛みが強い時にはキスを避けるなどの対策は必要かもしれません。
裏側矯正は費用が高く歯磨きが難しくなるマイナス面もありますが、矯正中の見た目が気になって治療をためらっていた方にとっては、得られるメリットの方が大きいかもしれません。
裏側矯正に興味のある方は、一度矯正歯科医院へ相談してみましょう。メリット・デメリットも含め、現在の歯並びや噛み合わせに合った治療方針を詳しく説明してくれますよ。