監修医師
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
【実体験レポート】矯正治療が思うように進まずに転院された方の実体験を紹介します。本来であれば矯正治療をスタートした医院で治療を終了するのが望ましいのですが、何らかの理由により「転院」を余儀なくされるケースは少なくありません。転院前後の症例写真で歯並びの変化を詳しくご紹介します。
公開日:2019/10/01 更新日:2020/06/12
歯科医師 古川雄亮 先生
国立大学歯学部卒業後、大学院において歯のエナメル質の形成に関わる遺伝子研究を行い、アジア諸国で口腔衛生に関連する国際歯科活動にも従事した。歯学博士修了後、南米の外来・訪問歯科診療に参加した。 2019年10月10日Nature系のジャーナルに研究論文「HIV感染患児における免疫細胞の数と口腔状態との関連性について」を公開。
目次
Kさん 「治療を始めて3年経過しても抜歯の隙間が埋まらない」 (20代・女性)
Kさんは、ある医院で矯正治療をしていました。矯正治療を始めて3年経ちましたが、矯正のために抜歯をした隙間が埋まらずに、改善の兆しがまったく見えない状態でした。
いっこうに埋まらないすき間について、数度、担当医に相談しましたが、十分な説明が得らずに、不安が募っていったそうです。そこで、一度、他の先生の意見を聞きに、矯正歯科の専門医院へ相談することにしました。
本来は治療をはじめた医院の担当医が最後まで治療をすること、あるいは、転院が必要な場合は担当医が、再治療が可能な専門医院に紹介することが望ましいです。これから紹介する例は、本来あってはならないことですが、残念ながら、こういったトラブルは、現実には起こり得ることです。
「矯正治療の臨床経験が豊富なドクターの治療が受けられるか」、「治療内容や疑問について、真摯に向き合って答えてくれるドクターなのか」、「メリットとデメリットをきちんと説明してくれるか」等をポイントに、患者様ご自身が実際に医院や先生みて、心から信頼できる医院のもとで治療をすることが大切です。
A医院で抜歯による治療を開始してから、3年がたったKさん。いまだに抜歯したスペースが埋まらないことに不安を持ち、B医院に相談をしにいきました。下の写真はB医院に相談したときのものです。
<B医院で再治療する前のお口の状態>
【上あご】 上あご4前歯と、犬歯に大きな抜歯の空隙[くうげき](sすきま)が完全に残っています。
【下あご】 下あごの空隙はほとんどありません。
【右側面】 上下奥歯の前後のかみ合わせは悪くありません。しかし、全体的に深く咬みすぎています。 この深いかみ合わせが円滑な治療をはばむ問題点でした。この深く咬みすぎている歯の状態について、Kさんは気づいていたようですが、前の主治医は気づいていなかったとのことです。
再治療では、すべての装置を入れ替えました。うまく改善できなかった治療方法は踏襲しない場合が多いです。一から装置を装着する手間はかかりますが、装置のポジションはきわめて重要なので、新たに付け替えが必要でした。 今回の再治療は、上下第二大臼歯(正中から7番目の歯)に装置が必要だと診断し、 全体の咬み合わせを浅くしてから、上顎前歯を後退させる計画をたてました。
<再治療中のお口の状態> (治療の最終段階)
・左側面、右側面の写真をみると、再治療前と比較して、全体の咬み合わせが浅くなっていることが明らかです。今回はかみ合わせを浅く改善して、上顎の空隙を閉鎖しました。
・今回の再治療では、上下の第二大臼歯にも装置をつけました。(写真:上あご、下あご)
再治療前と比べて、上顎の左右の犬歯が短く見えるのがわかります。これは 歯が歯ぐきにめり込んでいるから短く見えるのです。 全体の咬み合わせが浅くできている証拠です。
1年6ヶ月の動的治療を行いました。歯が後方に移動したことで上の唇もへこんだようです。
<治療中のお口の状態>
・【お口の中の写真】 ほぼ、完璧な状態です。 安定感もしっかりあります。
・【評価】 歯列全体が調和を持ってきれいです。
・【再治療をした担当医より】
今回の患者様は、初めに治療したA医院での治療を含めると、トータルで5年近い月日が治療に費やされました。このようなケースは本来あってはならないことです。Aさんのように、改善の兆しが診られずに、また十分な説明をされないまま治療が長期化している患者様は、心が疲れた状況で新たな医院にお越しになることが多いです。ですから、たとえ、転院をして担当医が変わったとしても、再治療に入る前には、患者様の悩みを聞いて、場合によっては、心のケアする必要もあります。例えば、メールを何回も交わしたり、治療をはじめる前に何度も会話を重ねながら信頼関係を築くことが特に大切です。そうして、ようやく治療開始につながるのです。
再治療をする前に採取した下顎の模型写真です。カーブが見られ、第二大臼歯突出しています。矯正歯科治療では、このカーブがまっすぐになります。今回の症例の場合、第二大臼歯に装置がないと、前に位置する第一大臼歯が沈み込んでカーブが深くなってしまいます。
再治療後に歯型を採取して作った模型写真です。矯正治療において、装置のポジションはきわめて重要です。そこで、再治療では新たに上下の第二大臼歯を含む全ての歯に装置を装着して、治療しました。この結果、カーブがなくなり平坦化されました。